1207人が本棚に入れています
本棚に追加
***
「どうぞ」
30分ほどしてやってきた男を目にしたとたん、OKしたことを後悔した。
(やっぱ、とんでもなく危ない仕事じゃないの、これって)
にこりともせず、黒の高級国産車の後部ドアのそばに立っていたのは、真っ黒な髪を七三分けのオールバックにした長身の男性。
すっとナイフを入れたような切れ長の目はするどく、鼻筋が通り、唇も薄い。
はっきり言って、昔のヤクザ映画とかVシネマなんかに出てきそうなご面相。
酒井さーん。マジで反社会勢力とかじゃないよねー。
不安を覚えたわたしは、車の扉に手をかけたまま、未練がましく事務所のほうに顔を向けた。
酒井さんは、窓から顔をのぞかせて、例のニコニコ顔で手を振っている。
もう、せめて面接ぐらい一緒に来てくれればいいのに。
後で文句言ってやらなきゃ。
最初のコメントを投稿しよう!