脱出

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脱出

 今日はわたしの十六歳の誕生日。いよいよこの日が来てしまった。  お父様たちはまるで国事でもあるかのように、盛大にお祝いをしてくれた。それには祝福の意味だけではなく、惜別の意味も込められているのだ。  わたしの国に古くからある、悪しき習わし。自国のためという名目で、わたしは遠く離れた他所の国に、嫁がされることになるのだ。  わたしの生まれた国、ラスターハートは、元は小国だった。領土の拡大の為に他国と争うようなことはせず、隣国と対話し、友好国となる道を選んできた。互いの王家と婚姻関係を結ぶことで、代替わりごとに合併を繰り返し、国を大きくしてきたのだ。  既に大陸の全土を統一していたラスターハートは、自国の防衛の為に、他の大陸に目を向ける必要があった。同盟を結ぶ国へは、友好の証として、王女を嫁がせる。それが国を守る為になると信じられてきた。  わたしの三つ上のジュヴィお姉様は身体が弱いし、第一王女でもある。その役目がわたしに回ってくる事は想像に難くない。子供の頃からわかっていた事だ。  王家に王女として生まれたばかりに、自由を奪われ、国のために身を差し出さなければならない。わたしの人生は自分以外の誰かの都合で、勝手に道筋を決められてしまうのだ。そんな人生はゴメンだ。  どんなに祝福を受けようと、豪華な贈り物をされようと、わたしは誤魔化されない。今日、わたしはこの国からの脱出を決行する。頭の堅いお父様に、説得など通用しないからだ。  テーブルの向こうに座るお父様と目が合う。わたしはこれみよがしに笑顔を作ってみせた。  わたしは心の中で唱えた。お父様、今日でしばしのお別れです。ふつつかな娘をお許しあそばせ。  城から逃げ出すと言っても、手引きをしてくれる味方などいるはずもない。そんな事をすれば、処刑されるかも知れないのだから。誰にも頼らず、かつ、誰にも見つからないように城を脱出しなければならない。  わたしの部屋は、城の南側の最上階にある。窓から落ちたりすれば、助かる道理はない。だからこそ、わたしがそんなところから脱出するなど誰も想像出来ないのだ。
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