0人が本棚に入れています
本棚に追加
ある夏の蒸し暑くて寝苦しい夜。
なかなか寝付けずにいた僕は大好きなおばあちゃんの部屋に向かった。
「ねえ、おばあちゃん……」
「おや、どうした? 眠れないのかい?」
戸口に立つ僕におばあちゃんは優しく訊く。
「うん」
うなずきながら、おばあちゃんの隣に腰かけた。
「なにかお話でもしてあげようか」
「うん、お願い。そうだ、怖い話をしてよ」
僕がそういうと、おばあちゃんの目つきが急に変わった。
ずっと遠くを見つめるような目をして、おばあちゃんがいった。
「じゃあ、ある男の子にまつわるお話をしてあげよう。そのお話も今と同じ夏に起こったことなんだよ」
おばあちゃんは昔話を語り始めた。
あれは昭和四十年代後半の雨の多い夏の日だった。
この話の要となる男の子の名前……それは原田一郎くんといった。
彼のお父さんは、私の住んでいた山裾の田舎町でも有名な大工さんだったはずだ。
一郎くんも私と同じ小学校六年生。彼は隣のクラスの子だった。
でも、とくに親しかったというわけではない。
その日、私は一番仲の良かったクラスメイトの女友達と町内の花火大会を見学しに行くことになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!