妹とのこと

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 私が真由を心底嫌いだと思ったのは高校の時だった。  こんな私でも好きになってくれた男の子がいて、冬に付き合い始め、春に入学してきた真由に奪われた。  彼を家に招いたのが軽率だったと、今でも思う。「お姉ちゃん、帰ってるの?」と私の部屋のドアを開けた時に、二人の目が合ったのがわかった。  瞬間、自分がドラマでいうところの脇役、ただの通行人になり下がったのがわかった。二人の間の引力が目に見えるようでもあった。  妹が自室に引き上げた時、もう彼は私への興味を失っていた。 「お姉ちゃんの彼氏って大人っぽいね。あんまり真由の周りにいない感じ」 「妹さんって……その、すごく可愛いね」  次の日にはそれぞれから聞いて、三日後には彼と真由が一緒に帰っていた。     さすがに文句を言ったが、真由は平然としていた。彼女はネイルを落としていて、安い除光液のにおいが部屋に漂っていた。 「うーん、でもお姉ちゃんにはあの人もったいないと思う。キス下手なんだよ。また彼氏作ればいいじゃん。もっとかっこいい人」  同じおもちゃを買えばいいじゃない、と言う母の口調にそっくりだった。  それまで「この人と結婚できたらいいな」とまで妄想していた彼はただのクラスメイトに戻り、真由はいつの間にか違う男子と手をつないで帰っていた。  私はひどい傷跡を埋めるように、勉強に打ち込み始めた。元々成績は良い方だったが、面白いくらいに成績が伸びた。担任から校長までもが東京の大学を熱心に勧めるようになった。  成績だけは真由に真似されなかった。  集中して勉強すれば、妹のことさえ忘れられた。
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