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「死んだ?」
アパートで受けた兄からの電話は衝撃的だった。
その日も寒かった。窓に小雪がちらついていた。
真由が死んだ。
聞いた途端に、なぜだか頭は勝手にストーリーを作り上げていた。
きっと真由は重い病気だったんだ、だから遠くに行く姉を気持ちよく送り出せるように、ファミレスであんな話をしたんじゃないか。
そうだそうに決まっている、私の彼氏を、スカートをおもちゃを嫌になるくらい欲しがって奪っていった妹が、あそこまで素直に私のことを慕う妹であってたまるか。真由は自己満足のためにケリをつけたんだ。
「おい舞花、聞いてるか?」
「あ……ごめんなんだっけ」
「子供は軽傷で済んだって話」
子供? 急に出てきたワードに頭が混乱した。
「ごめん、もう1回いいかな」
兄は頭から再度話してくれた。
真由はコンビニに行き、出たところで車にひかれそうになった子供を助けて死んだ、ということだった。
「親父もおふくろもすっかりまいってる。体調が心配だからさ、しばらくマメに実家に寄るようにするよ。近くに家を建てようかって嫁とも話してる」
「なにか、私にできることあるかな」
「今は大変な時期だし、仕事柄忙しいだろう。落ち着いたら日本に帰ってくればいい。たまに親父たちに電話かけてくれ」
「うん……」
電話を切った後もまだ窓の外は小雪がちらついていて、今聞いた話が夢のように思えた。
真由が死んだことが、それもただの事故で死んだことが信じられなかった。
事故の妄想は私の醜さを露呈しただけだった。
電話があって数日後、母親から荷物が届いた。
中にはマスクが大量に入っていた。
日本でも高額転売されているというのに、どうやってかき集めたんだろう。
これを使い切った頃には日本に戻れるんだろうか。いつになるんだろう、と私は開けた段ボールを前にしばらく考え込んでいた。
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