妹とのこと

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 そして今。  私はハーバーブリッジを渡り、坂を下り、公園へたどり着いた。  柵にもたれて対岸を望む。  曇天の下でもオペラハウスは美しかった。  真由が死んだと聞いて最初の年はただ呆然としていた。葬式に出ていなかったのも大きかったのだろう。現実味がなかった。  2年目の命日はひどい土砂降りだった。Youtubeでお経を聞こうとして、やめた。  真由の「暗いよ~、真由にはそんなの合わないよ」と言う声が聞こえてきそうだった。  そう、まだ日本に帰れば声が聞ける気がしていた。  3年目の今年はこの場所で真由を想うことにした。  深緑色の海を挟んで、美しい世界遺産を望み、真由が好きだったジンジャーエールを少しずつ飲む。  あの子はここでも人目を引くだろうか。  どうせ海外に行くなら写真映えしそうだからハワイの方がいい、と言いそうだ。真由なら、結婚する時も派手さを好んで海外挙式にしそうだった。  結婚して、子供を産んで、そしたら私達の関係も変わっていただろうか。  私も変わっただろうか。  問題児だった兄が変わったんだから、きっと変わっていただろう、と思う。  だけどもう、わからない。  姉妹として私たちのあり方が良かったのかどうか、もう判断もつかない。 「死んだらなんにもならないんだよ、真由」  空につぶやく。広い空は何も聞かなかったかのように変わらず曇っている。  iphoneが振動した。  兄からのメッセージが届いていた。 「今日は三周忌だった。家族だけでやったよ」と法事の写真を何枚も送ってきている。こんな気遣いをする兄ではなかったが、子供が生まれてから急速に大人になり、優しくなった。  父と母は少し老いていた。孫を見る目が優しかった。  メッセージは続いた。 「葬儀社が作ったアルバム送ったんだけど届いた?」 「せっかく作ったのに悲しくなるからって母さんがしまい込んでてさ。届いたら教えて 」  飲みかけのジンジャーエールをリュックにしまい、私は駅へと向かった。  早くアルバムを見たかった。  この曖昧模糊(あいまいもこ)とした気持ちにケリがつけられる気がした。
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