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「珠々は既にお見合いのお話を進めていたので、今さら、そのようなことを言われましても」
そう言いながらも、この義母が頭の中ではソロバンをはじきまくっているだろうことは容易に想像がつく。
藤堂が相手なら、いくら引き出せるか、そんな計算をしているのに違いない。
「結納金のお話は聞いております。当方ではその倍をご用意しましょう」
あっさり言い切る麟太郎さんの顔を二度見してしまった。
「私にはそんな価値は・・・・疵者ですし、貰っていただけるだけでも」
そう言い淀む私に義母はキツイ視線を向けてきた。
「藤堂様がそう仰ってくださっているんです。余計なことはお言いでないよ」
私の反論も虚しく、麟太郎さんの気が変わらないうちにと話しを進めようとする。私の今回の見合いに際しては、先方に義母はかなりの無理を言っているはずだった。吝嗇家の相手に無理やり飲ませた条件だと聞く。その倍の金額が提示されれば、懐にいれずして何とするっていう感じなんだろう。
義母と麟太郎さんの間で、話しはどんどん進んでいく。麟太郎さんに私が会った日の夕餉前には、藤堂の方から人がきていた。現在進行しているお見合の相手との間の結納金の話は、義母が実際に受け取れるはずの金額をかなり膨らませた数字を藤堂に伝えていたはずだ。その倍を出すという藤堂の羽振りの良さに、気が変わらないうちに何とか早くまとめてしまえと思う気持ちも分からないではないけど。
「今日にも珠々さんを当方に連れて帰りたいのですが構いませんか?」
私に席を外させ、現金を手にしたらしい義母は即座に了承したという。
私としては、いつやって来るかもしれない見合い相手やいまだに生温い視線を送ってくる義兄がいるこの家からは逃げ出したくてたまらなかったから、麟太郎さんのその提案は渡りに船だった。
「嫁入り道具も用意できていませんが、構いませんね」
「身一つで構いません」
私の嫁入り道具など、死んだ母が用意してくれていたものでさえ、平気で売り払っていた義母のことだ、準備するつもりなど露ほどなかったに違いないけど。
「珠々、今持って行ける必要なモノだけ持っていらっしゃい。他のモノは後で運んでもらえるように言付けましょう」
麟太郎さんは変わらぬ様子でそう言ってくれたので、私はひとしきりホッとしていた。
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