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翌日、僕の目の前で兄さんは女体化をしてみせる。
「可愛いだろ?」
「はいはい」
「じゃあ着替えるから!」
兄さんは、僕の目の前でいきなり上着を脱ぎ出す。
「ちょっと兄さん! なんで僕の部屋で着替えるのさ!」
「フッ。女の子になったからにはラッキースケベを振りまきたいじゃないか? 問題あるか?」
「大ありだから! 兄さんの部屋で着替えて!」
無理矢理、僕の部屋から押し出す。ふうと一息ついて、兄さんが僕に着せるために買った服を見る。確実に男性ファッション誌を見て買った丸分かりの服だ。それに着替えながら、ついつい呟いてしまう。
「女体化した兄さん、可愛かったな……」
と言った瞬間、ドアが開く。
「だろ? 俺可愛いだろ? でも今日は恋人ごっこだから名前の翼って呼んで欲しいな!」
「出てけーー!」
一瞬たりとも気が抜けない。兄さんから残念が抜けることはない。今日の恋人ごっこデートは戦場なのだと朝から分かってしまった。ちなみにスカートはいた兄さんは可愛かった。どうやらイケメンは女体化すれば美女になるらしい。
「じゃ行こっか」
家を出るなり僕の腕に腕を絡ませてくる兄さん。
「……兄さん、胸、押し付け過ぎじゃない?」
「なんでそんなこと言うの? 胸を押し付けて意識させるのはデートの定番でしょ!?」
なんだその思考回路は。都合のいい二次元かよ。
「意識させなくていいから。で、どこに行くの?」
「もう〜。翼って呼んでよ。ひ、ろ、は」
めっちゃ殴りたい。殴りたいと思うことは日常でも多々あるが、今ものすごく殴りたい。
「ど、こ、に、い、く、ん、です、か? 翼くん?」
「もういけず〜。せめて、ちゃん付けで呼んでよ! とりあえずショッピングモールでいんじゃない?」
無計画かよ! 女体化しても残念治らないのは薄々分かっていたけど、酷くなってないか?
「はいはい。行くよ」
そんなことで怒ってはいけない。だって僕はどうしようもない兄さんを上手くまわせるできた弟なんだ。今日だってうまくやるさ。
「もう! もうちょっと速く歩こうよ!」
歩き出してすぐに兄さんは、そう言って僕の前に小走りで走り、いかにもわざとらしく転んで見せた。しっかりとスカートの中を見せてから立ち上がり、ホコリを払うような仕草を見てから僕を睨みつける。
「スカートの中……、見たでしょ?」
多分、多分だけど、これが兄さんがやってみたかったデートなのだろう。大学生になっても、まだデート未経験なのが骨身に滲みて分かる。
「いや。見てない。てか、どうでもいい」
「もう! 広羽のえっちーー!」
それ、やりたかったのか。こういうの拗らせてるって言うんだよね。僕をポカポカ叩きながらドヤ顔の兄さん。いや今日は格段と残念だよ。
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