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女体化した兄さんの残念にイヤというほど振り回されて今日の恋人ごっこデートは終わった。だが、もう一回あるんだよ。今度は僕が女体化するパターンの恋人ごっこデートが。
「ね、ね、どうだった?」
女体化が切れた兄さんは、女性服を脱ぎながら僕に感想を聞いてくる。だからなんで僕の部屋で着替えるんだよ。
「えーと、まあ、兄さんらしいんじゃない?」
適当に濁す僕。
「でしょーー! あれがお兄ちゃんの理想の女の子なの!」
あれが? あれがなの? こんな悲しいことってある? 兄さんが、デート一つ経験できない理由が分かっちゃったよ。人生って切ないんだ。
「じゃ、明日は広羽が女体化してね! 今年の夏休みは一生忘れられないや!」
兄さん、僕は今すぐ忘れたい夏休みだよ。理解ある弟やってると兄さんのいらんことまで知ってしまう。明日が不安だ。こんな憂鬱な夜が今まであったろうか。
翌日の朝、僕がまだベッドでうとうとしているとき、元気よく兄さんがドアを開ける。
「広羽ーー! 女体化の時間だよーー! お兄ちゃん、女の子とデートなんてはじめてだから、張り切っちゃうよーー!」
寝ぼけ眼で兄さんの姿を見ると、もうすでにデートの準備ができている。パリッとした男性ファッション誌に載ってそうな格好にピシッと髪もセットしてる。でもまだ六時だ。どこも開いてないよ。
「兄さん、早すぎ……」
「だってだって早く広羽の女体化見たいんだもん! お兄ちゃんがあんだけ可愛くなるんだから広羽だって絶対可愛い! 出掛けるのはまだいいけど女体化して!」
兄さんがふんふん鼻息を鳴らす。怖いよ兄さん。女子に免疫ないの丸分かりだよ。
「分かったからちょっと部屋出て。女体化して着替えるから」
「女体化するとこ……、見せてくれないの?」
「兄さん……、女体化するの弟だとしても女の子には優しくね。でなきゃマジなデート無理だからね?」
「そんなこと言ってぇ、広羽だってデート経験ないだろ?」
「いや。僕は何回かあるよ?」
兄さんの顔がみるみる青ざめる。
「なんでだ! お兄ちゃんの弟なのに、なんでデートできるんだ!?」
多分ものすごく優秀な反面教師がすぐ近くにいるからだろうね。兄さんの弟だからだよ。
「普通に友達の女の子と遊びに行ってるだけだから、なんてことないよ」
「お兄ちゃんを置いて大人の階段昇ってかないで!」
「兄さん、とりあえず女体化するから出てって」
無理矢理兄さんを追い出して僕は女体化チョコレートをかじる。胸が膨らみ、身体が柔らかくなるのが分かる。顔もちょっと丸みを帯びたかな? 姿見で女体化した自分を眺めてみる。なかなか可愛い。兄さんの弟だけあって僕もそこそこのルックスだからな。女体化する機会なんてもうないだろうから、兄さんをなるだけ楽しませてやろう。
この先、兄さんがデートできるチャンスなんて一生ないかも知れないし。
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