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──もういいかい──
──まーだだよー──
──もういいかい──
──まーだだよー──
カーテン越しに隣のベッドから聴こえる、どうやら寝言か独り言のようだ。
一週間前に交通事故に巻き込まれ入院、寝たきり状態になってしまいまだ身体は動かせない。だから隣にいるのはどんな人物か知らなかった。
声から察するにけっこう高齢のようだ、最初のうちは小声で言ってたので気にならなかったが、だんだん大きくなってきてイライラしてくる。とはいえまったく動けない状態ではどうしょうもない。コールボタンすら押せない今は我慢するしかなかった。
──もーいいかーい──
──まーだだよー──
──もーいーかーい──
──まーだだよー──
だんだん叫ぶように声が大きくなってきた、さすがに我慢できないからつい口を挟んだ。
──もーいーかーい──
「もういいよー」
──もーいーかーい──
「もーいーよー」
一回目は遠慮がちに、二回目は大声で言うと、ピタリと止んだ。
──……ホントにいいんですか……──
「うん、いいよー」
──では許可をいただいたので執行します──
口調が変わったのに気づいたが後の祭りだった。私は急に体調が悪くなりそのまま死んでしまったのだ。
霊体となった私の前には黒いスーツ姿の男が立っていた。
「誰だアンタ」
「死神です、お迎えにあがりました」
「その声、さっき返事をしたのはアンタか」
「ええそうです。お隣りの老人は運転ミスであなたに交通事故をおこした方でしてね、あちらも寿命が尽きかけてたんです。巻き込んでしまって申し訳無いことをした、何とか彼を助けてくれと頼まれたので、残りの寿命をあなたに分けてたんですよ」
「それがなんでこんなことに」
「どんどん目減りする寿命に執着心がわいたらしく、もういいかと言い始めたんで、私がまだだよと止めてたんですけどね、あなたがもういいなんて言うからこうなったんです。もう少しで延命措置が間に合ったんですけどねぇ」
ーー 了 ーー
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