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元気でやってるか?
うん、元気だよ。ごめんね、いつも電話して。
いいんだよ。咲良の声聞けて嬉しいよ。
ありがと、お兄ちゃん。
仕事の方はどうだ? 楽しくやってるか?
うん、楽しくやってる。
脳が揺れる。景色が揺れる。意識がどこか違う世界に飛んでいく。取り戻そうと、もがく。そして必死に掴む。
意識よ、まだ何処へも行くな、行くな。私はまだ戦わなくちゃならない。
意識を取り戻した瞬間、抱え上げられ、マットに叩き付けられた。背中が弾ける。渇いた音は歓声に掻き消される。
叩き付けた相手が、ロープをまたぎ、コーナーポスト最上段に登る。安定しない足元ながら、しっかりとバランスを取り直立している。
ああ、次の技がくる。仰向けに倒れた狩野咲良は、そう思った。
だが、動かない。動けないわけでも、次にどんな技が来るのか分からないわけでもなく、ただ動きたくなった。
咲良は、この瞬間がたまらなく好きだった。天井が、眩しい、そして熱い、そこには幾人もの選手を照らしてきたライト。ずっと、ずっと見てたい。
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