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「ってことはさ、明日からはもう電車で相見さんと話したりできないよね」
「話したいか?オレに告白してきた女だぞ」
「僕は話したいよ、さびしいもん。お前を好きでもいいから話してほしいな。お前への告白聞いてないってことにして、何も知らないフリして話しかけようかな」
「プライドないわけ?」
「恋愛にプライドも糞もないよ。好きだから話したい。ただそれだけ」
弟はまた黙りこんだ。それからしばらくして、弟はありきたりな言葉で慰めてくる。
「兄貴にはもっといい女の子が現れるよ」
「ははは、それはない。お前じゃないんだから」
「いや、現れてくれなきゃ困る。オレの自慢の兄貴だし」
急にそんなことを言うもんだから、冗談かと思い見上げると弟はいたって真剣な面持ちだったので、胸が詰まり目頭まで熱くなった。
「今もそうだけど、中学のときめちゃめちゃ勉強してたよな。あんなに毎日毎日夜遅くまで勉強してすげーなって思ってた」
「何だ、勉強の話かー」
ちょっと拍子抜けしたが、僕みたいな兄貴のことでも見ててくれたんだと思うとうれしかった。
「あんなにあんなに勉強してさ、気が狂いそうなほど勉強してさ……」
「……うん」
褒められて悪い気はしないが、体がむず痒くなってくる。
「それなのに……それなのに学年で一位取れないってすごくない?逆にさ」
ちーん。僕の目は糸になった。
「おい……ちょっとその美しい顔に傷をつけていいか?」
「いいけど、まず届かないと思うよ、その身長じゃ」
弟はけらけらと後ろにひっくり返りそうなほど笑っている。
僕は弟を見上げて睨み返した。
「確かにな!」
そんな素直な僕を見て弟はまたからからと笑った。本当に楽しそうに笑っている顔もめちゃめちゃかわいい。かっこいいが崩れてちょうどいいかわいらしさになる。
だから僕は弟ってやつが今も昔も大好きなんだ。
(了)
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