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力なく微笑む相見さん。明らかにいつもより元気がなかったが、逆に声には覇気があった。
用事ってなんだよ。弟に用事だったということだろうか。ずいぶん話し込んでいたように見えた。
「じゃあもうすぐ電車来るんで」
「あ……そうだね。気をつけて」
チキンな僕にはやはり聞けなかった。ここで「何話してたの?」って平気で聞ける男は本当の男だと思う。
「ありがとうございます」
相見さんはまた足早に立ち去った。
改札を出ると弟がまだいて、こちらを見つめて立っていた。
何でいるんだよ。なぜだかわからないが今日ばかりはそう思った。弟に対してそんなこと思うなんて、きっとどうかしている。
「一緒帰ろう」
「お前から誘ってくるとか気持ち悪いな」
「会ったついでじゃん」
弟がこんなことを言ってくるなんてイヤな予感しかなかった。
「見てたの?」
「何が」
「オレと相見さんが話してるの」
「ん?え、あー見てたというか、見えたというか。てかお前、相見さんと何話してたんだよ。偶然会ったのか?」
違うとわかっていながらそんなくだらない質問をしてしまう。
「誘われたんだよ、大事な話があるからって」
ほうらやっぱり、そうだと思った。弟から誘うなんてほとんどありえないって思ってたしわかってた。でも一縷の望みに託したい気持ちも確かにあった。
僕は弟の顔を見ることができなかった。
「んで、さっき告白された」
……だから悪い予感しかしないって言ったんだ。僕は何も答えることができなかった。
「もちろん断ったからな?」
「……うん、わかってるよ」
「ホントだよ」
「知ってる」
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