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「おう、上がってたのか」
振り返りながら私に声をかけるその顔は、すでに真っ赤だった。
「今日は帰ってこないんじゃなかったの」
「確かにそうだったんだけど。思ったより仕事が早く終わったから、来ちゃった」
来ちゃった、じゃないし。にやけ顔に苛ついてしまった。居間に入りかけていた足を引っ込めようとすると、アイツが近づいてくる。
「こたつ入れよ。寒かっただろ」
徐々にアルコールに臭いが漂ってきて、とっさに居間の中に入るふりをしてアイツを避けた。そして、すぐにこたつの中に滑り込む。入れた手足がじんわりと暖まっていった。気持ちいい。蕩けるように頭を横にして、こたつの上に乗せる。身体が浮かんでいくような気分に浸っていると、アイツが顔を覗き込んできた。
「そういえば、真由。車に酒いっぱい積んできたんだ。何から呑む?」
「別にいいよ」
アイツがいる方とは反対を向き、ちょうどやっていたバラエティ番組を見つめる。こたつの中で足が当たり、正面に入ってきたことが分かった。
「チューハイ、それともカクテル、いきなりビールからいくか?」
語気を上げ話してくるあいつに、私は黙ったまま番組に集中する。テレビでは漫才をやっていて、ツッコミを入れる度に笑っていた。テレビが緑色のダウンで遮られた。
「なんか、お兄ちゃんに冷たくない?」
唇を尖らせる姿に自分の眉間にさらに皺が寄る。
「別に。普通だし」
「だったら、さっきの質問答えろよ」
「いや、二十歳になったら、お酒呑みたくなるわけじゃないし」
テレビがあった方とは反対側を向き、目を閉じた。
「えー、俺はやっと文句言われずに呑めるって嬉しかったけど。その日は丸一日呑み明かしたな」
私は無視をしたつもりだった。アイツは聞いてもないのに語り始める。
「大学生の頃は、サークル仲間とか地元の友達と暇があれば呑みにいったもんだけどね。何度酔いつぶれたことか。びっくりだよね。ホントに記憶なくなっちゃうんだから」
その言葉を聞いた瞬間頭の中で、母の泣き顔、サイレントの音、たくさんの警察官が過った。未だにへらへらと語るアイツに嫌気がさし、私はこたつの表面を拳で叩く。
「それが何人に迷惑かけたと思ってんの。まだ私は許したわけじゃないからね」
睨みつけるとすぐに目を反らした。
「ごめん」
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