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 二十歳になった日の夜、私は風呂に入っていた。肩まで湯船に浸かりながら昼のことを思い出す。大学に行くと、友だちが祝ってくれた。自分がよく座る席にお菓子などで飾り付けられていた。さすがにクラッカー慣らされたのは驚いたが。腰を前に滑らせ、さらに顎辺りまで浸かった。ふと、自分の両腕を水面に伸ばす。大人というには、少し短く丸みのある腕だ。さらに、その両手を胸に持ってくる。胸は両手にすっぽりと収まった。やはり変わっていない。乾いた笑いが風呂場に響く。  やがて、それにも飽きた私は浴槽から上がり、脱衣場へ向かった。湯船に浸かっていたにもかかわらず、温度差で身震いがする。急いで身体をタオルで拭き、部屋着に着替えた。次に、髪をドライヤーで乾かそうと鏡を見る。洗面台の鏡は白く曇っていた。手で曇りを取り除くと、大人というには幼い顔をした私がいた。その現実を見ないよう目を鏡から反らしながらドライヤーで髪を乾かす。  しばらくして、だんだん足元が凍りつくように冷えてきた。その中で思い浮かぶのは台形で中は温かい、猫が丸くなるので有名なアレ。  早く入りたい。ドライヤーのスイッチを切り、髪を手櫛で整える。急いでドライヤーを片付け、廊下に出た。廊下は照明がついておらず、先が見えない。一歩踏み出せば、床が氷のように冷たく、足先から頭まで震えた。爪先立ちになり、小走りで居間へ向かう。こたつへの期待を胸に居間の扉を開けると、先に一人こたつの中に入っていた。  ファーのついた深緑のダウンに寝癖がついた短髪。こたつの上にはビールの空き缶が転がっている。なんで、アイツがいるんだ。自分の顔に皺が寄ったのが分かった。
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