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正しいミルクの飲ませ方
みうみさんがくる! こりゃ一大事。と思うのだが、頭の中は授乳のことでいっぱいだった。
もふちゃんは、病院にいる限りは安心安全だ。しまちゃん、トイレも使えるようになったが、お腹が緩いのはもふちゃんと同じなので、お薬入りのミルクを朝晩飲ませていた。
薬は黄色い。みうみさんが、しまちゃんを見に来るというのに、しまちゃんは口の周りや胸のあたりが黄色く汚れていた。ミルクをこぼすので、どうしてもそうなってしまってしまう。
お風呂に入れたいのはやまやまだが、お風呂は体力を使うので、あまり小さなうちは入れられない。せいぜいがウェットティッシュで拭くぐらいだが、嫌がってなかなか拭かせてくれない。
そのくせ、ミルクを飲み終えると、とにかく抱っこして欲しいらしくてしばらくわたしにくっついている。
しまちゃんは、きょうだい四匹の中で一番甘えん坊らしかった。ほかの子のお尻に吸い付いていたのは、お乳に吸い付いていたときの名残のようだったし、バスタオルを時々吸っていたりもした。
しまちゃんたち四匹は、生後一週間ほどで捨てられたようだった。
お母さん猫は元気だろうか。ふとそんなことも思ったりした。
いや、それよりもまず家の中を片付けなければ。子猫のいる和室……もう手の打ちようがないほど乱雑になっている。キッチン、言わずもがな。それでも、仕事の合間にちょこちょこ、とはいえ木曜日に決まってくるのは土曜日。猶予がほとんどない(泣く)。
気づけば土曜日だった。そして、病院から「退院できますから、夕方迎えに来てください」とも連絡があった。二週間の入院予定はどうなったんだろう。確かにお見舞いにいくと、前と同じような感じで叫んでいたからなあ。分からなくもない。
みうみさんから「一時くらいにつきます」と連絡があった。しかし、なんと30分も早くみうみさんは到着した。
な、なにも用意をしていない。昼食すら。
ふたりでわーいわーいと再会を喜び合うが、ここでひとつ大切な打ち合わせがある。家の中には夫がいるのだ。
「いいですか、みうみさん。わたしはこれからみうみさんのことを〇〇さん(本名)と呼びます。みうみさんは、わたしのことを△△さん(本名)と呼んでくださいね」
と、超重要な取り決めをしてから、いざ我が家へお迎えいたし候(仕事場の方からおあがり頂いた)。
そして、そろそろ出かけるところの夫に、みうみさんを紹介した。
「初めまして、〇〇です」
「子猫の里親さんになる人だよ。一緒に東京とかに行ったりしたんだよ」
夫、なんとなくあうあうとかもごもごとかで、そのまま出ていったのだった。
ふう、これで今まで出かけていたのが一人でもなく、イマジナリーフレンドでもないことが証明された。
それはいいのだが、食事の準備がなにもしていない。
みうみさんからは、たくさんのお土産をいただいてしまった。うちの大人猫のおもちゃもたくさん(今もお気に入りで遊んでいます)。
とにかく、しまちゃんと面会だ。
みうみさんは、しまちゃんにすぐメロメロになった。人懐こくて、おとなしいしまちゃん。すぐ馴染む。
よかった。
二匹には、すでに名前がついていた。
しまちゃんは、テルちゃん。もふちゃんは、ノルちゃん。
かわゆいお名前が用意されていた。
それで、語るのもお恥ずかしい食事をさしあげまして、「じつは今日の夕方、もふちゃんが退院するのですが」と伝えると、みうみさんは「ぜひとも、もふちゃんとも会っていきたい」とのことで、夕方まであれやこれやと話してたら、あっという間に夕方になったので病院へ引き取りに行った。
わたしからすれば、ぐったりするもふちゃんを何度も見てすでにトラウマになっていた。出来れば、もうちょっと長く病院へいてくれたほうが安心だったが、先生の判断だから大丈夫ということなのだろう。
もふちゃんは相変わらず叫んでいた。もう毎度のことだがちょっと恥ずかしい……。あの叫んでいるのが、もふちゃんです、はい。
診察室へ呼ばれると、点滴を抜いてもらう作業の後に、先生からミルクの説明があった。
「お家で飲ませているのだと、ちょっと薄いようなので、粉ミルクをあげてください。いまから作り方を説明します」
と、娘にあげていたような粉ミルクの缶(小)が診察台のうえに出された。
「粉ミルクをすりきりいっぱい、器に入れます。そこへお湯10ccを入れてよく混ぜます」
ふむふむ。
「シリンジに吸い上げたら、飲ませます」
と、先生はもふちゃんの口の横にシリンジを突っ込んだ。
え、あれ? 正面から口に咥えさせるんじゃなくて、横からねじ込むの!?
「こうやって、飲ませてください」
……はい。
衝撃で二人とも無口になってしまった。
車での帰り道。「……ミルクの飲ませ方、ああなんだね」ねじ込む。
「うん、そうだね」ねじ込む。
しっかり飲ませれば、低血糖は回避できるだろう。
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