ずっとのおうちへ

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ずっとのおうちへ

 六月十二日の朝は小雨だった。みうみさんの住む町をネットで検索したらば、一日中雨。  天気は良くない。ちょっと寒いかな。  子猫たちは元気にこの日を迎え、朝もご飯を食べた。そのあとは、二匹して追いかけっこをしたり、さんざん遊んで体をくたくたにした。  ようやく素直になった夫が、「もう最後だよ」というわたしの声に、子猫を抱き上げる。  もっと早くから、子猫たちとたくさんふれあえばよかったのに。ろくに撫でることもせずに最後の日になってしまった。  時間に余裕をもって新幹線の駅に行こうと思っていたのに、道路が混んでいて思うように進まなかった。雨のせいだろうか。  ようやく新幹線駅の駐車場に着く。わりと時間ギリギリ。よっこらしょと猫たちのケージを持った。背中には、娘が高校時代に使っていたディパック(一部ファスナーが壊れている)、右手にはお土産の入った紙袋。もう行商人のオバちゃんみたいな格好だ。  車から出て駐車場の端に来て、マスクを忘れているのに気づき、もう一度車に戻ってマスクをする。わりと時間がギリギリ。速足で、駅舎へ入り猫たちのケージ用の切符を窓口で買う。 「見えるところに貼っておいてくださいね」と言われたので、ケージの出入り口のところへペタリ。さてさて、急がねばと階段を上る(わりと長い階段です)。ホームに書かれた新幹線の絵で自由席を確かめて、目的のところまでいて、ほっと一息をついたとき!  (お土産の紙袋を忘れたーーーーっっ)  そう、猫たちの切符を買う時に下におろした紙袋を忘れたのだ。慌てて、階段を下る。もう時間がない。  下について駅員さんに息も切れ切れに「あ、あの、お、お土産のっ」と言ったあたりで、駅員さんがすぐにくだんの紙袋を手渡してくださった。  お礼もそこそこ、再び階段を登る。もう汗だくだし、時間ギリギリだし、ああああっ。  ホームの自由席乗車口の前に来てほどなく、新幹線が来た。  各駅停車の新幹線には、あまり人は乗っておらず三人掛けのところに一人で座れた。  猫たちの様子はどうだろう。車内であまり鳴くようならデッキに移動しよう、とかいろいろ考えていたが、朝あそんで疲れたせいか、二匹とも眠っていた。  助かった。  駅に到着すると、みうみさんが待っていて下った。車での移動中に雨が強くなったり弱くなったり。  子猫たちはみうみさんのお家に到着するまで、ぐっすり眠っていた。  みうみさんのお宅に到着。ご家族にご挨拶して、猫たちをケージの中に放す。  たくさんのご飯にかぶりついて、トイレも使って、すぐ環境になじめそうだった。先住猫さんたちも顔を見せ、子猫を遠巻きに見ていたけど、威嚇されないから大丈夫大丈夫。きっとみうみさんが先住猫さんの匂いをつけられるようにと持ってきたピンクの袋のおかげだろう。  みうさん、ありがとうございます。二匹一緒になんて、ほんとに理想的で嬉しいです。  しまちゃんは、テルちゃんに。  もふちゃんは、ノルちゃんに。  二匹は新しい名前がついた。  みうみさん宅でご馳走になり、コーヒーまでいただいて帰宅した。  みうみさんにまた車で送っていただいた。駅に着くまでに雨は上がり、雲間から青空がのぞいていた。  帰宅してすぐ、子猫たちが使っていた和室を片付けた。小さなトイレも、折り畳みケージもお皿も湯たんぽも何もかも。  ハチワレと三毛が和室を覗きに来る。今朝までそこに何かがいたはずと覚えているのか、部屋の中を嗅ぎまわっていた。  夜、久しぶりに最初から布団で休む。三毛とハチワレはいつもより甘ええたさんで一緒の布団で体をくっつけるようにしてきた。  大人猫たちにも、ながいあいだ我慢をさせた。  おやすみ、猫たち。子猫はもういないよ。  さよなら、子猫たち。  そこは幸せになれる、ずっとのおうちだよ。
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