概念の子猫ちゃん

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概念の子猫ちゃん

☆登場人物(猫)☆ わたし……話者。北国に住むおばちゃん。 夫……小さきモノとの付き合い方がわからないらしい。見ていると、娘が小さかった時とおなじ接し方。 〈実家グループ〉 兄……動物に対して超下僕体質。 母……世話焼き体質。 父……最近は何事もすぐ忘れる。 〈友人後輩〉 後輩……子猫の存在をわたしに教える。 友人S……高校の同級生。飼い猫四匹。 友人M……小学生からの幼馴染み。 〈大人猫〉 ハチワレ……男の子、推定三才。女の子が大好き。もと保護猫。 三毛……女の子、ハチワレと兄妹。ツンデレ。 キジトラ……女の子、推定二才。兄に拾われ事務所の看板猫に。普段の夜はわたしの家で休む。 火事場猫……二年前に兄が火事場からレスキューした猫。 ☆  ☆  土日、子猫の安否ばかりを気にしていた。食事もろくに喉を通らず、「仔猫は5時間以上食事を与えないと死ぬ危険が」とか、そういう情報をネットでみては、ひとりクラクラして過ごした。 土日のうちに、さらに里親候補が二件あり、子猫の引き取り手は順調に決まっていった。  月曜日のあさイチ、八時過ぎ。心臓、ドッキドキで保健所の番号を押した。 「はい、合同庁舎です」  電話に出たのは、年配らしい男性だった。保健所をお願いしますというと、「はい、お待ちください」と気安く受け答えしてくれたが、まだ保健所は開いていなかった。  ともかく、心臓が爆発しそうになりながら朝ドラを見る。なんも頭に入ってこない。朝ドラ終了して華大さんの顔を見て15分経過。八時半、再び電話を掛けた。こんどは繋がった。 「あの、あの、先週の金曜日に○○(後輩の勤め先)で保護された子猫がいたと思うんですけど……」 (職員さん、ガサガサと書類か何かで確認している様子) 「はい、います」  ほっとして肩から力が抜ける、わたし。 「あの、その子猫をいただきたいんですけど」  と、わたしが言うとちょっと困惑したような感じの返答が来た。 「五匹もいますけど」 「ええ、引き取りたいんです、もう四匹引き取り手がきまっています!!」  やたらと力んだ言葉で伝えるわたしに、さらに困ったようにもにゃもにゃと電話の向こうで相談をしている。 「子猫たちは、まだ引き渡す月齢になっていないんですけど、今回は特例ということで。ただし、拾得物として一週間は持ち主が来るかもしれないので、お渡しできるのは金曜日です」  おおおお……猫たちを引き取れるのだ、あああああ。  かなりふにゃふにゃになったが、その後保健所の方と打合わせして、金曜日の午後三時に受け取りに行くことになった。 「ただ、健康状態があまりよくないです。五匹で渡せるとは限りません」  うあああ、やはり恐れていたことが起こりうるかもしれないのだ。 「わかりました」  ほっとするどころか、さらに心をヒリヒリさせて受話器を置いた。  それでも、とにかく子猫は我が家に来るのだ。  金曜日まで準備をしよう。とにかく引き取ったら、獣医さんに健康診断してもらうということで、ペット用のシーツとか、子猫のご飯とか、いろいろと買いそろえておかねば。  と、ここでいろいろと疑問に思い、後輩とひと悶着あったのだが、それは後ほど書くので省く。  猫、いまのところ里親さんとその候補としては  みうみさん、母方の実家、親戚の子の知り合い(1)、親戚の子の知り合い(2)。    尋常ではないスピードで決まっていく。ふつうは、一匹決めるのだって大変なのに。子猫という付加価値があるにしろ、信じられないほどだ。    しかしながら、もしも子猫が何匹も亡くなってしまったらどうしよう。四匹決まっているのに、数が足りなくなって、保健所のケージの中から「すみません、もう二匹ほど必要なんですけど」「じゃあ、どれか選んでください」なんて展開になったら、どうしよう。選べるわけない、選べるわけないよ、とすでに一人涙目で胃はキリキリ痛む。  いや、その前に喧嘩中の夫に、子猫が来ることを言わねば等、金曜日の引き取りまでのハードルの多さよ。  子猫用の哺乳瓶、ミルク、ペットシーツ、いろいろとホームセンターで買いつつ、その日を迎えたが、緊張感でクラクラしてしまっていた。  ちょうど友人Sが事務所に来て、付き添いしてくれると申し出てくれた。四匹の猫を飼うSは、子猫が見たかったらしい。いずれにしろ、心強いので保健所へと二人で出かけた。  子猫はまだ概念のうちである。
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