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選ばれる子、選ばれない子
土曜日は眠気との闘いだった。車を運転しながら、大あくび。請求書作りながら、大あくび。
それでも時間になったら、ミルクを飲ませに帰宅。職場と自宅が近いとはいえせわしない。
猫のミルクの時間にちょうど遠縁の一家が我が家のそばを通ったので、子猫を見ていかないかと声を掛けた。
遠縁のCちゃんの旦那様はアメリカ人で、ハーフの女の子がいる。まだ二歳だけど、ぼちぼち話すようになっていて、初めて見る子猫におっかなびっくりしていた。
旦那様が「とけいをいっしょに入れると、さびしくないよ」と教えてくれた。時計の音は鼓動に似ているのかお腹の中で聞いた音に似ているのか、子猫が落ち着くらしい。
「Bye bye kitty」と帰っていった。
その後、猫のために早めに仕事を上がらせてもらって、ひたすら子猫のお世話をした。授乳と排泄はもちろんだが、汚れたペットシーツを取り換え寒くないように、湯たんぽを追加し、ケージから脱走するもふもふ組を捕獲する。
そうこうしていると、遠縁の(こればっかり)の人たちが猫を見に来た。母の実家のお嫁さんとその息子(獣医師学科の学生)だ。
お嫁さんは子猫にメロメロだった。すると、息子くんがスマホを操作しながら言った。
「今日、子猫をもらいに来るって」
は? 何の話だ。
「おれの友だちの家の人。二匹欲しいって言ってる」
は? 二匹!? 一匹ではなかったんだ。
「夕方、来るって」
そんな、いきなり??
とまどううちに日が暮れて、その里親さんは現れた。とても優しそうなお母さんと、小学校高学年くらいの女の子だった。岩手に進学した娘さんのところへ来て、その帰りだという。
「そう何度も来られるわけではないので、今日貰っていきます」
やはり、二匹欲しいという。
「わたし、子供のころから何度かミルクボランティアもしたことがあるので、子猫のお世話も大丈夫です」
と、おっしゃる。ミルクボランティアとは、乳飲み子の子猫を一時的にお世話するボランティアのことだ。もう願ったりかなったりのご縁で、断る理由がひとつもない。
さっそく子猫を選んでもらった。
「灰色のは、もう貰い手がついているので、残り三匹のところからお願いします。全部オスです」
とわたしが言うと、「えー、まよっちゃう。どの子も可愛いですね」と娘さんとしばし悩んだ後、もふもふの黒としましまの薄いほうの二匹に決定した。
「ケージもあるから、大丈夫」
お母さんは手際よく子猫を娘さんと手分けして抱っこすると、ステーションワゴンに乗せて帰っていった。
わたしの手の中には、お礼のバウムクーヘンが残った。
なんだか別れを惜しむ間もなかった。貰い手が未定なのは、残り一匹になった。
やっぱりというか、しましまちゃんは選ばれなかった。実は、残されたしましまちゃんは目の大きさが左右で違っているのだ。兄も写真を撮ったときに、気になったらしい。
里親候補について息子くんに聞くと、友だちのところのおばあ様だという。
こちらとしては、あまり高齢だと譲れないということや、完全室内飼い・ワクチン接種・去勢手術をしてくれること等のことを守れるかどうか聞いて欲しいとお願いした。
でも、もしも「この猫じゃないのがよかった」と言われたら? しましまちゃんは、どうなる?
ふと、そんなことを思った。
※しかし、いつまでもはっきりした返事が来なかった。
二匹になって、ケージがいきなりがらんとしたように感じた。二匹でちょうどいいのかも知れないけど、なんだかさびしいなあ。
その夜もまた、何度か起きてミルクを飲ませた。二匹になっても、かかる手間はあまり変わらず。
まだまだ離乳しそうにない。
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