《振られて良かったぜ》

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《振られて良かったぜ》

 〽あー、振られちまった 新しい恋ぃ        手に入れないとぉ 錆びついちまうぜえー  でたらめなメロディに、強引な歌詞をのせて歌う。口笛が吹けたら間奏も入れられるんだけど、私はぜんぜん吹けないから、手をクラップしながら歩いている。  振られたって言っても、別にまったく悲壮感はないんだ。だってカレが浮気してたのはビンビン感じてたし、ああこの人、私に本気じゃねえなあ、って最初から分かってたから。  じゃあ私は本気だったのか? うーん、難しい問題だねえ。好きは好きだったよ。つーか、大好きだったのは間違いない。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、気遣い上手。簡単に言えば、カレはほぼ完璧な男だった。私の告白を受けてくれたときは、「すわ、ドッキリか!」と思うぐらいのモテ男くんだった。  でも、何かビミョーな距離感がずっとあったんだよねえ。手をつなぐことも、キスすることも、それ以上のことも一度もなかった。そして私は、途中で気づいてしまった。ああ、そっか。この人にとって、私は(おんな)()けのお(ふだ)みたいなものか、と。  一応カノジョって立ち位置に置いとけば、他の女からの告白を断りやすくなる。こまめに話したり、二週に一度ぐらいデートしたりすりゃあ、周りからカップル認定される。いくら中身がカラッポな交際だって、女除けの効果は発揮できるってことかい、と。  交際当初、私は浮かれていた。盛り上がっていた。  ──うん、一人でね。
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