《振られて良かったぜ》

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 でも、それぞれのテンションの違いが、日を追うごとに現実を突きつけてきた。    手をつなごうとしたら、さりげなく頭を掻くカレ。  キスしてしまえと迫ったら、唐突に咳き込むカレ。  ホテルに連れ込もうとしたら、直前に下痢を訴えだしたカレ。  親に紹介しようとしたら、突然バイクで自爆事故を起こして入院したカレ。  他にも色々な策を講じてみたけど、カレは「そら無理あるやろ!」的な行動で回避し続けた。  一番ひどいと思ったのは、二人で旅行に行こうとした朝だったね。 「俺は人を殺してしまったかも知れない」といきなり出頭しやがった。  私は警察のロビーでおろおろしながら待ってた。そんでもって数時間後、カレはけろっとした顔で取調室から出てきた。「睡眠薬と酒を一緒に飲んで、夢と現実が分からなくなってた」だってさ。  結局、予約してあった航空券は使えなくなり、旅行そのものもキャンセルになった。カレと二人で出かけた先が警察だなんて、両親にも友達にも言えるはずがない。言ったら私が笑いものにされてしまう。  カレにとって、私は傷つけてもいい存在だったんだと思う。でも、思い返してみると、私が傷ついたことは一度もないんだ。つか、怒ったことは何度もあるよ。ふてくされたことも多い。寂しく感じたことも、イライラしちゃったことも多かった。けど、傷ついたことはなかったなあ。友達が言うには、私は「タフガイ」なんだそうだ。これまでの人生を振り返ってみても、傷ついたことってなかった。冷めてるとか、諦めてるとか、そういうことじゃなくてね、人間というものの愚かさを受け止める容量が大きいのかも知れないね。
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