《振られて良かったぜ》

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「あ、いらっしゃいませ」  はあ、声まで美しいことよ。さてはおまえ、この世のモンじゃねえな。でも、妖怪でも悪魔でもいいや。今すぐ私を好きになってくれ。 「おひとり様ですか? ご希望の席はございますか?」  うん、この声を独り占めしたい。今日中に捕獲できるかな。だがしかし、肝心の弾薬が不足している。仕方ない。こちらフレグランス。今回は情報収集に徹する。イブニングペアーは機を見て弾薬を補給せよ。可能であれば、店内の女性客を撃ち殺せ。 「あ、あの、どこの席でもいいんですか?」  私は純情な女の子の仮面を被って訊ねた。彼はふんわり微笑んでくれる。 「ええ。今の時間は()いてますから、お好きな席がありましたら遠慮なくどうぞ」  日本語うまいな。外国人じゃなさそうだ。良かった。私は日本語しか話せない。 「じゃあ、あなたのことが一番見られる席を希望します。案内してください♪」  こう言うとさ、「何だこいつ?」って思われがちじゃん? だけど、未知の岩盤にとりあえず穴を開けとくのよ。そうすると、「男」ってえ猿は案外意識し始めるもんなのよね。 「では、こちらの席へどうぞ。僕の動きが(ちく)(いち)目に入ると思います」  ほぉ。この男、慣れてるな。そりゃこんだけのビジュアルだ。モテるのは当たり前、もっとすごい派手な女遊びをしていたって不思議じゃない。こいつを買うセレブな奥様もいるかも知れない。もしかしたら、(しょう)()をやっている可能性もある。
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