21人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、いらっしゃいませ」
はあ、声まで美しいことよ。さてはおまえ、この世のモンじゃねえな。でも、妖怪でも悪魔でもいいや。今すぐ私を好きになってくれ。
「おひとり様ですか? ご希望の席はございますか?」
うん、この声を独り占めしたい。今日中に捕獲できるかな。だがしかし、肝心の弾薬が不足している。仕方ない。こちらフレグランス。今回は情報収集に徹する。イブニングペアーは機を見て弾薬を補給せよ。可能であれば、店内の女性客を撃ち殺せ。
「あ、あの、どこの席でもいいんですか?」
私は純情な女の子の仮面を被って訊ねた。彼はふんわり微笑んでくれる。
「ええ。今の時間は空いてますから、お好きな席がありましたら遠慮なくどうぞ」
日本語うまいな。外国人じゃなさそうだ。良かった。私は日本語しか話せない。
「じゃあ、あなたのことが一番見られる席を希望します。案内してください♪」
こう言うとさ、「何だこいつ?」って思われがちじゃん? だけど、未知の岩盤にとりあえず穴を開けとくのよ。そうすると、「男」ってえ猿は案外意識し始めるもんなのよね。
「では、こちらの席へどうぞ。僕の動きが逐一目に入ると思います」
ほぉ。この男、慣れてるな。そりゃこんだけのビジュアルだ。モテるのは当たり前、もっとすごい派手な女遊びをしていたって不思議じゃない。こいつを買うセレブな奥様もいるかも知れない。もしかしたら、娼夫をやっている可能性もある。
最初のコメントを投稿しよう!