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きっかけ
「まず、お友達から始めませんか?」
フラれたものの、彼女はそう俺に提案してきた。
「私、黒田亜夢です。亜細亜の亜に夢と書いて、亜夢です」
「俺、神崎紘。この近くの大学で経営の勉強してる」
彼女、いや。亜夢は俺と同い年。大学には通っておらず、働いているそうだ。
「私、身体だけは丈夫なの!」
そう言って、細い腕に力を籠めるが、力こぶなど出来はしない。力んでいる顔が可愛すぎてにやけていると…
「なんで、笑うの!?」
「いや…可愛いから」
「笑わないでよ~」
初対面でありながら、この距離感。今までどうやって生きて来たのか逆に心配になる程だった。
これをきっかけに、彼女のバイト終わりに話す事が日常になっていた。
彼女と過ごす時間はとても楽しい。彼女は色々な事に興味を持つ好奇心旺盛な性格で大学にも興味があるのか。俺にどんな勉強をしているのか。どんな先生がいるのか。と色々聞かれた。
俺も答えられる範囲で答えるのだが、彼女の好奇心はそれだけでは満たされなかった。
「なんだか、寂しいなぁ」
何度か二人で会っている内に、彼女がそんな事を言い出した。
「なぁ、明日。予定あるか?」
「ないけど…どうかしたの?」
「ん?明日、花火大会だろ?花火見えるんだけど、どう?」
明日、この近くで花火大会がある。俺が住んでいる家から、その花火が見えるのだ。絶好のタイミングだと思った。これを逃せば、次は来年になってしまう。来年の今頃もこうして、二人っきりの時間を過ごしているとは限らないのだから。
「うちにある本も読めるけど、どうかな?俺の説明なんかよりも、詳しい本が沢山あるよ」
本を読めるのはついでだが、亜夢は花火よりも本なのか、考え込んでいた。
「良いよ。あ…いつもみたいにここで待ってもらえるかな?」
「…明日もバイトか?」
亜夢は首を横に振った。
「明日は休みだよ」
俺は滅多に行かないが、この近くに激安スーパーがあり、そこで何か食材を買って料理を作りたいらしい。
「駄目かな?」
亜夢のお願いを断る事は俺の辞書にはない。
「良いよ。俺、料理あんまりしないし。何、作るか決めてるのか?」
「うん!せっかくのお祭りだし…たこ焼きとかどう?あ、たこ焼きプレートなければ…お好み焼きでもいいかも」
丁度、この前。商店街で買い物をした時。貰った福引券でたこ焼きプレートを当てたのだが。料理を全くしない俺はそのたこ焼きプレートも未開封のままだった事を思い出し。明日はたこ焼きパーティーをすることになった。
こうして、俺は亜夢のとお家デートの約束をこぎつけた。
家に帰ってから、付き合ってもいない女友達を家に招き入れるのはどうなのか。と思ったが。彼女のあの笑顔を思い出すと、今更辞めようとは言えなかった。
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