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思い出
「おまたせ~」
いつも通り、バイト終わりに俺は彼女と公園で待ち合わせ、その足でスーパーへと向かった。
「たこがない…」
たこ焼きの材料を買いに来た。というのに、肝心のタコが売っていない大事件。でも、彼女は。タコの代わりになる食材をいくらか買っていく。
「えっと、キムチ、ソーセージ、チーズ…」
他にも紅ショウガ、天かす、ネギ、鰹節、青のり、たこ焼きに必要な物のをかごの中に入れていく。
「ソースとマヨネーズはある?」
「マヨネーズはあるけど…ソースはないな」
「オッケー」
こうして、彼女と買い物を済ませ、家へと向かっていると…ふと。疑問に思った事があった。
「そういえば…お家の人。心配しないの?」
彼女は実家暮らしだと言っていた。男友達の家に行くのだから、ご両親も心配しているのでは…と思ったのだが。
「大丈夫。今日は誰も家にいないし…」
そう言って、亜夢はどこか寂しそうに呟いた。
「よし!早速作っちゃおう!」
亜夢はそう言って手際よく、たこ焼き作りを始める。
「すげぇ…」
俺も具材を切るぐらいは手伝ったのだが、亜夢とは違い少々不格好な形で、いかに料理をしていないかが、分かってしまった。
「普段からやってるから…」
亜夢は照れながら、たこ焼きづくりを止めなかった。
「ハイ、キムチ入り」
こうして、話している間にも。第一弾のたこ焼きが出来上がった。いや、タコは入っていないので、実際はキムチ焼きなのだが…
「亜夢は食わないのか?」
「私は焼きながら食べるから、紘君、食べていいよ」
そう言って、亜夢は第二弾のたこ焼きを作り始めた。第二弾にはキムチとチーズを入れるようだ。
「亜夢も食べなよ。その間、俺がやっとくから」
「でも…」
「たこ焼きは熱々の内が旨いんだから!」
そう言って、亜夢と役割を交換したものの…俺はさっきも言ったように。料理の腕はからっきしだ。
「あわわ…焦げる!」
「たいしょうーふ?」
熱々のキムチ焼きを頬張りながら、心配する亜夢も可愛いな。と思いながら俺はたこ焼きを作り続けた。
その結果…
「ごめん、全部焦げた…」
所々が真っ黒。とは言わない程度に焦げた。亜夢はそんなキムチーズ焼きを見て…
「キムチとチーズは焦げやすいか~」
そう言って、亜夢は焦げた部分を外しながら、俺が作ったキムチ―ズ焼きを口いっぱいに頬張った。
「美味しいよ。ハイ。あーん」
差し出されるがまま、俺は自分の作ったキムチーズを頬張った。
「んま…」
「で…しょ…?」
亜夢が顔を真っ赤にした所で。お互い何をしたのか。急に恥ずかしくなってきて、思わず顔を逸らした。
「紘…くん」
亜夢がなにか言いたげな声で、俺の服の袖を引っ張っていた。
「花火…始まってるよ」
「え?」
窓の外を見ると、数発の花火が上がっていた…たこ焼きを焼くのに夢中でその事に気付かなかったのだ。
「花火、見よっか」
「おう…」
俺達はこうして、一時たこ焼き作りを中止し、窓際に腰を下ろした。蚊に刺されたくない亜夢の要望で網戸越しの鑑賞だったが、俺が住んでいる家の周辺には高い建物がなく、花火が綺麗に見れた。
「…懐かしいな」
亜夢は昔、お母さんの作ってくれたたこ焼きを食べながら、家族並んでこうして網戸越しに花火を見た事が思い出だと話してくれた。
「でもね…お母さんがその後すぐに、事故で亡くなっちゃから…思い出はそれっきりだよ」
亜夢はそう言って、またどこか寂しげな顔になった。
「なにか、あったのか?」
「うん…」
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