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「――ほら、こう言うじゃん? 金は天下の回り物、お前の金はみんなの物ってさ」
「いやぁ、ちょっと聞いたことない……かなぁ」
「あ? なに、友達の事を否定すんの?」
「な、何でも無いっ! いつも通り『オレのイチゴオレ』でいいかな?」
「お~け~お~け~っ! さすが良い奴だわ、教室の前で待ってっかんな!」
少し派手な格好で怯えている彼は、一緒のグループに存在はするものの、パシリやカツアゲの対象にされていると想像できた。
背中をバンバンと叩いてご機嫌にトイレを出て行こうとする不良三人を――。
「あの、ちょ、ちょっとお待ちを!」
錬星は声をかけて止めた。
「あ? 何、お前?」
「今お金がないなら貸して貰うのに借用書とか書いた方が良いんじゃないかなと思いましてですね、そうしないとまるでカツアゲみたいになってしまい不名誉なあれですし、それにみんな仲良く買いに行った方が世の中とても楽しいと思い私は提案するのですがいかがでございましょう!?」
怯えながらも一息にまくし立てた。
「……はあ? お前何様だよ」
「腹立つわ~コイツ」
「なに、俺達がカツアゲしてるって言いたいん?」
あっという間に錬星は怒気をあらわにした不良達に囲まれた。
――ああ、関わらずに居れば痛い思いをしなかっただろうなあ、俺のばかチンがぁっ!
内心では関わらない事がいいと後悔しつつも、考えるより自分の正義感が先走ってしまうのは、生まれながらの性格であった。
「いやぁ、本当にそんなつもりはないんです! ただ、みんな仲良く笑って学校生活送りたいな~なんて思ってるだけで、友人間のお金の貸し借りはトラブルの元というのでちょっとっていうか!」
「うるっせぇな。てめぇは関係ねぇだろうが!」
不良のうちの一人が、錬星の胸ぐらをつかみよせる。
「ち、近い近いです。見つめ合うとちょっと素直になれないっていうか、こんなイジめみたいな光景は見ていて気分が良くないっていうか――」
「ちょ、ちょっとお前、俺は大丈夫だから、これぐらいで丁度良いから……っ!」
腰が引けつつも食い下がり続ける錬星の前に出て、パシリ君が止めた。
「すぐ買ってくるからさ、先に教室行って待っててよ! ね!」
「……ちっ。オイ、お前も買ってこいよ! 顔覚えたかんな」
必死にこんがんするパシリ君を見て、不良三人組は錬星を突き飛ばすとトイレを出て行った。
突き飛ばされた錬星は衝撃に負け、汚れたタイルに尻もちを着いてしまった。
「あいたたたぁ……尾骨がっ」
「だ、大丈夫かよ……。お前アホか? 何で俺を助けようとかしたんだよ……?」
「いやぁ、脳が判断する前に脊髄反射的に身体が動いてまして……。でも、やっぱり犯罪を見て見ぬ振りしたら、ずっとモヤモヤするからですかねぇ。結局どっちでも嫌な思いするなら、動いておきたいといいますか……」
「……お前、アホだな」
「よく言われますねぇ、ええ」
はははっと苦笑を浮かべる錬星につられ、パシリ君も一緒に苦笑した。
「顔も覚えられちゃったそうですし、早く買いに行きましょう? 始業チャイム鳴っちゃいます」
「……お前は金ださなくていいからな」
「『オレのイチゴオレ』は一本八十円ですからね、三本ぶんで二百四十円。ここは割り勘でいきましょう!」
百二十円を財布から取り出しパシリ君へ強引に渡した錬星は、そのまま廊下に設置された自販機に向け足早に歩き始めた。
「変な奴だなコイツ……」
自販機で『オレのイチゴオレ』を三本買った二人は、彼らが所属するという一年二組に向け階段をのぼったところで――。
「――おっ! ちゃんとあいつも来たじゃん」
おどり場でたむろしている不良達と出会った。人数は十人に増えている。
「あ? こいつうちのクラスの優等生くんじゃん」「なに、知り合い?」「いや、同クラなだけ」
中には彼が見たことのある顔も混じっていた。自分と同じ七組の不良生徒だ。
「いやいやぁ、お待たせいたしやした。人数分の『オレのイチゴオレ』買って参りました!」
そう言って三本差し出すが――。
「おいおい、足んねぇよ。見てみろよ、十人いんだろ? 六本足んねぇだろうが」
「――なん、ですって?」
「俺さぁ……全員分、買って来いっつったよな?」
「そんな……」
「早く行かないと遅刻すんぜ?」
「全員分だと……」
「あ? 文句あんのか?」
「全員分だと、必要なのは六本ではなく七本です! 十引く三は七です!」
「「「…………」」」
不良達の動きが一瞬止まり、顔を見合わせた後――。
「てめぇナメてんのかぁアァアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!?」
「すいません、今の流れは我ながらアホだろと思いましたが突っ込まずにいられずホゲぇえええええ!!」
再び胸ぐらを掴まれて壁にドンッと叩きつけられる。
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