承認欲求と務め

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承認欲求と務め

 姉の蝶はその山のあらゆる雄蝶から求愛され続けていた。 一方妹の蝶はその山に居るどの雄蝶からも求愛されることはなかったのである。 姉の蝶にとってそれは日常で、妹の蝶にとってもそれは常であった。 「はあ、妹さん、わたくしはこの小さな山の殿方だけに口説かれることが些か退屈に思えてきましたわ。そうでございますからわたくしは旅に出ます。わたくし決めましたの。この美しき姿をあらゆる殿方、いえ草や木や他の山、平原や湿地の、ありとあらゆる皆さま方にこのわたくしの美しい姿をご覧になって頂きたい。それがきっと美しきものとして生まれた務めでございますわ」 「はあ、お姉さま、わたくしはこの大きな山の殿方さまのどなたにも愛を伝えて頂いたことはございませんから退屈でございますの。ですがきっとどの山に旅したとしても、醜いわたくしが殿方さまから求愛されることはないでしょう。わたくしもお姉さまとご一緒したいのはやまやまですけれど、お留守番役も必要でしょう。それがきっと醜きものとして生まれた務めでございましょうね」  そうして姉の蝶は旅立ち、妹の蝶は山に残った。
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