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最近の人はどうだろう。
掌で光る板にみんな夢中で、目の前のことなんか見えて無さそうだ。電車でも飲食店でも顔を上げることなく、忙しなく指を動かしているのをよく見る。
漏れなく息子も、そんな最近の人の一人だった。
「学校はどうだ」
「うん」
「楽しいか」
「普通」
一度も顔を上げることなく答える息子に、思わず溜息をついたことを思い出した。
目の前で息子に語りかけている人間がいるのに、息子が一生懸命話をしている人間は、掌の板にいた。
最近の若者は……だなんて自然に思ってしまうほど歳をとったのだと思う。
ロックグラスの中の氷が溶けて音を立てた。同時に、バーの扉が開く音がする。
カラン……
「わぁ!めちゃくちゃ雰囲気のいいバーだ」
静かだった店内に、元気な声が響いた。それはまるで、昔の夏のようにカラリとした声だった。
「あ、すみません。一人なんですけど、いいですか?」
「もちろんです。どうぞ」
落ち着いた綺麗な所作で店員がカウンターに紙のコースターを置く。
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