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伴侶を失った途端に、カラカラになった野菜のようになってしまった父。虚無は人から、生きる気力を奪うのだと知った。
父と同じく自身も大きな虚無に襲われた。でも、私には自分の家族がいたのだ。妻が大事なのはもちろんだが、息子は私にとって未来の象徴だった。
自分が世から居なくなった後も、私の未来は息子が紡ぎ続ける。虚無から立ち直るために必要な存在だった。
はて。
その息子の名前が思い出せない。
歳をとったということだろうか。にしても、息子の名前を忘れてしまうなんて酷い。
「優しく厳しい父でした」
「良ければ話を聞こう」
ぼんやりとしていた私を、若者が現実へと引き戻した。
よく知らない相手だからこそ、話せることや見せることが出来る弱さがあると思う。若者の虚無を軽くする手伝いをしたい。
気軽な気持ちだった。
「何されても死なないような顔をしていたのに、病気になったらあっという間に死んじゃったんです。親父って、無敵だと思ってたんですよ。俺」
「父親というものは、子供からしたらヒーローのような存在なのはよくわかるよ」
「はは、本当にそうなんです。子供だった俺が高いところから落ちそうになると、どこからともなく現れて受け止めるんですよ」
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