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 息子も高いところに登りたがった。ジャングルジムや大きな木、果ては机やタンスの上。小さな手足を一生懸命動かして、えっちらおっちらよじ登っていた。  バランスを崩して落ちそうになる息子を、両腕で受け止めた時の重みは今でも覚えている。 「……俺、後悔してることがあって」 「ほう、なんだい」 「親父が入院して、もうあまり長くないってわかっても、しっかり話をしなかったんです」 「それはどうして?」 「どうしてなんでしょうね。なんか、狭い病室に二人でいると緊張したんです。話したいことが無いわけじゃないのに、喉に詰まって出てこないっていうか。本当は謝りたいこととか、感謝とか言わなきゃいけない事がたくさんあったのに」  脳裏に息子の姿が過ぎった。何を話しかけても、掌の板に夢中だった息子は質素な椅子に座っていた。あの場所はどこだろう。自宅ではなかったはずだ。 「お待たせしました。カリフォルニアレモネードでございます」  目の前に薄い橙色をした液体が差し出された。ハッとして視線をあげた私に、店員がふわりと微笑む。 「先程、バーボンを嗜んでいらっしゃいましたので、ウイスキーにはブラントンを使用いたしました」  もしかしたら、しっかりとしたカクテルを飲むのは初めてかもしれない。飲んだ覚えがあるのは、せいぜいハイボールぐらいだ。
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