13 はじまりの暁

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「俺本当は色々できるんだ。だからこれからはダイに沢山いろんなことしてあげるね。沢山お花を咲かせてあげられるし、暑い日には雨を降らせてあげる。盥にお湯だってすぐに沸かせられるよ? 炎だってほら」  ぱちんっと指を鳴らせばシエルがそうしたように小さな火花が渦を巻きながら窓から飛び出して火の粉を散らして消えていった。 『ダイ、お前にできるかしら? 何もかも与えてこようとするイリゼを、貪らずにいられるかしら?』  奇跡の様な光景の数々に、ダイはシエルが去り際にいった言葉をぐっと重々しく腹に押し込んだ。 「イリゼ。俺に、街の皆に尽くすようにしなくていい」 「どうして? 何もして欲しくないの? 俺、ダイになら、なんだってしてあげるよ?」  人ずれしていない、柔らかな声でイリゼは甘い誘惑を囁く。ダイは懸命に後ろを振り返って縋るような表情でダイを見つめる美しい恋人に眩惑されながらも、一度尖らせた赤く柔らかな唇を味わってから大きくゆっくりと首を振った。 「違うさ。人に与えてばかりのお前だから、俺だけはお前の我儘を聞いてやりたいんだ。俺にだけ沢山甘えて欲しいし、世話を焼かせてくれ。今まで通り、お前が傍にいてくれて、一日の終わりにお前の顔を見つめながら一緒に寝台で微睡めるなら、それが俺の至上の歓びだ。なあ、イリゼ。お前こそ、俺にしてもらいたいことはないのか?」  イリゼは小首をかしげてから、ダイの太い裸の腕を重たそうに持ち上げると自分の薄いお腹に巻き付けて、じんわりとしたその温みを味わうように微笑む。 「そうだなあ。たまにこうして美しい色の空を一緒に見て、綺麗だねって言い合えたら、幸せだと思う。だって今、俺すごく幸せだもの」 「そうだな。俺も同じだ」  早起きな鳥の影が庭を横ぎり、柳の向こうで川面が煌く。  空瑠璃の花が眠りから目覚めて甘い芳香を辺りに漂わせ、今日も一日が始まっていく。  二人はそのまま移ろう空の色がゆっくり透き通った青に変わっていく様を満ち足りた気持ちのまま飽かず眺めた。  ダイは眠たげに目を擦ったイリゼを抱きしめなおし、柔らかな褥に寝転ぶと、暫し仕事に行くことすら忘れ、互いの温みを傍に感じつづける極上の微睡みを味わった。                                                   終 ☆ご覧くださりありがとうございます。  よかったら☆をぽちっといただくか、さらによかったら、  今アルファポリスのBL小説大賞にエントリーしておりまして、  こちらの作品気に入ってくださったらエールとか感想とか  あまつさえ投票とかいただけたら泣いて喜びます(私が)  よろしくお願いいたします。  https://x.com/hat22331/status/1711344181740994902?s=20
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