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強引に、そして素早く。子供が無造作に人形でも抱き上げるような仕草で、イリゼは横たわったままの彼の逞しい腕に易々と褥へ引き戻された。
イリゼのしっとりとした柔い胸が熱く硬い男のなめしたような浅黒い肌にひたと擦り付けられる。
(温かい……)
その温みを失うのかと思うと泪が滲みそうになる。
「……冷えきってる」
傍らで眠りについたはずのイリゼが恋人を置き去りに床を抜け出そうとしたとでも思ったのか、咎めるような口ぶりだ。
腕や胸、そして首筋に男の唇が次々と押し当てられ、合わさった部分から彼の熱がゆっくりとイリゼに流れ込む。
「んっ……」
同時に、じわっと広がる甘い疼きがイリゼの身体の内にも容易に沸き上がる。男が再び求めてくる情熱をも優しく背中を愛撫する掌から伝わってきて、狂おしい気持ちのままイリゼは男の胸に手を突きいやいやをした。
「駄目……」
呼び起こされた官能に飲まれそうになる。それはもう嫌だった。
「どうしてだ? 夜通し俺を求めてくれたじゃないか? お前ときたらいつも恥ずかしがるばかりで。……あれも可愛かったが、素直に乱れて強請るお前はなおさら可愛い。もっともっと欲しいって、欲張って、この綺麗な脚を絡めてきてくれただろ?」
(それは……。お前とああするのはもうこれが最後だと思ったから)
ただ細くて生っ白いだけの男の脚なのに、男は殊更滑らかで触り心地がいいなどと誉めそやしてくる。今もまた太ももを感触を確かめるように撫ぜ上げられ、不埒な指が双丘の間を探るに至り、イリゼの未だ火照りの引かぬ身体の奥が性懲りもなくまたじわりと疼く。
「もう、しちゃ、いやだ。ダイのこと、ちゃんと、見送りたいから」
漏らしかけた吐息ごとなんとか唇を噛みしめ、涙が滲む瞳で男を上目遣いに見つめれば、彼は僅かに目を見開くと魅入られたような顔をしながらイリゼをぐっと覗きこんできた。
「ただ少しの間、留守にするだけだ。今生の別れでもあるまいに。半月もすれば戻ってくる。いい子で待っててくれ」
(でもその時には……、お前はもう他の誰かのものだろ?)
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