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年中温暖な気候で名物である澄み渡った大空に似た色で甘く薫る『空瑠璃〈そらるり〉』の花々に彩られた田舎町ルーチェ。
温厚な領主一族が何代にもわたって統治しつづけているこの城下町にイリゼは祖母の代から魔法薬や護符となる装飾品等小間物の魔道具を売るお店を開いている。
店の奥と二階が住居スペースで、裏庭には小さなハーブガーデンがあってゆらりと風に靡く柳の向こうにはさらさらと小川が流れている。
川に沿って咲く空瑠璃の花が春から秋の初めまで長く見頃で、真夏には蛍が飛び違うのが見える光景は切ないほどに美しい。
元は街の外れにぽつっとあるような店だったが、数年前から川沿い地域の家賃の安さに惹かれて近所に若い店主が営む小さくも愛情いっぱいの洒落たお店が増えた。
これを機に、イリゼの店も大胆に方向転換をすることにしたのだ。
昔はイリゼの一族のように道具や薬に魔力を込められるものはずっと数が多かったらしいが、今ではもう年寄りばかりだ。イリゼは若い人にも手に取って貰い安くするように従来の苦みの強いどろどろの液体とはせず、花の香りや果実の香りづけをした清水に、それぞれの薬草の効能の或るチンキを垂らし、その後秘密の方法でキラキラと光り輝く色とりどりの液体にお洒落な加工して売り出した。
元気が出る魔法薬は春に咲く黄色い花々や太陽をイメージした濃い黄色。
恋する相手から自分が輝いて見えるようになる薬は底の方が薔薇色から薄紅までのグラデーション。
昔ながらの魔道具店からは小馬鹿にされて嫌がらせもされたりしたが、結局はまだあどけなさの残る美貌の店主の円やかな人当たりの良さに加えて、若い世代の『どうせ飲むなら美味しい方がいい』との要望を受けて前回の『新装開店』時はとても繁盛した。
(また気長にお店を軌道に乗せていくしかないよな……。もうこの間までのルーチェの隠れた名店って地元の人に愛された『虹色魔道具店』はどこにもないのだから)
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