3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
テレビを流していると、姉妹そろって活躍している女優の姉の方が今夜9時から放送される新しいドラマの番宣で朝の情報番組に出演していた。当初は姉妹という事ばかりで取り上げられていたが、最近テレビを見ている限りでは妹の方には全然仕事が来ておらず、姉の方にばかりドラマやCMのオファーが殺到している。
「こんなにすごいお姉ちゃんがいなければ、もっと幸せだろうに」
僕がこの姉妹を見ていて、妹に対して持っている率直な感想はこうだった。実際にそのような内容の記事やSNS投稿もよく見かけた。この世には顔も名前も知られていないタレントが沢山いるのだから、妹だって十分にすごい。もっとすごい姉の横にいつも置かれているから様子がおかしいのだ。
一度、妹がどんな思いを抱えているのか気になり、インタビュー記事などが出ていないか検索したことがあったが、気になっていることが直接話されているような記事は無かった。デビュー当初の姉妹で甲乙つけがたかった時期のインタビュー記事は見つかったが、仲睦まじい姉妹愛を前面に押し出している記事でそれ以外の情報は薄かった。
「優太、そろそろ歯磨いて出る時間じゃないの?」
横から母さんに話しかけられて我に返った。朝食に時間をかけすぎていた。口が汚れるのを覚悟で目玉焼きを皿ごと持ち上げて口に流し込んで、歯を磨いて鞄を持って家を出る。髪型を整える時間はなかった。
高校の始業時間に遅れないための最後の一本、その電車に何とかギリギリ間に合った。いつも通り、人がいっぱいで席にはもちろん座れない。ドア横のスペースに寄りかかってぼーっと外の景色を見る。
「あれ、優太じゃん!この電車で間に合うの?」
振り返ると、クラスメイトの潤だった。野球部の朝練にまみれている潤に電車で会うことはかなりレアだ。
「ギリギリ間に合う最後のやつ、これが」
「よかったぁ、前歩かねえの?ここだと改札遠いじゃん」
「僕はここでいいよ」
「じゃあオレもここでいいや」
潤は僕の数少ない友達の中ではかなり仲のいいほうの部類で、潤に言わせると親友だった。僕はというと、親友という言葉の基準がいまだにはっきりしない。人生に一人とかしか出会わないのが親友というのなら潤を親友にするかはもう少し慎重を期した方がいいかもしれない。
「潤、野球部の朝練は?」
「それがさぁ、みんなインフルかかっちゃって今日はなし。せっかくなら学級閉鎖してくれればまるまる休みなのになぁ」
「そしたら潤、しばらく試合出れるんじゃない?」
「バカにするなよ!俺は実力でスタメンを勝ち取るんだ!」
「勝ち取れそうなの?」
「うーん、怪しい。でも可能性はゼロじゃない」
僕は正直、潤の出来るか出来ないか分からないことにまっすぐ努力できるところが眩しくて羨ましい。僕はというと結果が出そうなことにしか努力が出来ない性分で、結果が出る可能性が少ないことにどうしてもやる気が湧いてこない。
ふと、潤に超成績優秀の兄がいることを思い出す。
「そういえばさ、潤のお兄さんってK大に入ったんでしょ?」
「うん、そうだけど」
「潤の家でさ、潤もしっかり勉強しろよとか、ガミガミ言われることってあったりするの?」
「エグいね、毎日言われる。まあオレが庭で素振りばっかりしてるのが親を煽ってる可能性もあるけど」
「お兄さんと比べられてるなって思う事ある?」
「母親からは直接言われるてるよ、毎日。親戚も言ってこないけど薄々弟は兄より頭悪いんだろうなぁって思ってると思うよ」
「それって嫌?」
「まあ嫌だね。うーん、改めて考えてみると一回一回ショックは受けてるような気がする。まあしょうがないんだけど」
ショックを受けているという表現と潤が、あまり頭の中でうまく結びつかなかった。潤はすごく前向きで、僕なら落ち込むようなことを笑って受け流せる強さをいつも感じていたからだ。
最初のコメントを投稿しよう!