火花の散る向こうで

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 僕の夢は何なのだろう。  花火を見つめながら、ぼんやりと考える。  ピアノを弾くことは好きだ。それが上達するのに越したことはない。だからと言って、ピアニストになりたいのかと訊かれると、僕はその返答に時間を要してしまう。とは言え別に音楽の先生になりたいわけでもないし、ピアノの教室を開いて生徒をとる気だって起きない。  ゆっくり考えなさい、と母は言った。絶対にならないといけない、なんて道はないんだから、と。それを聞いて、僕は多少選択にゆとりを持つことができた。  ただ、そんな僕でも将来の音楽に対してそこまで消極的というわけではない。強いて言うなら、僕は海外の洋楽やジャズピアノを聴いてから、そっちのほうに興味を持ったのだ。  洋楽は歌詞やリズムもそうだが、メインとなるミュージックをしっかり聞かせるパートが多く、印象に残りやすい。邦楽の多種多様さや歌詞のメロディーももちろん好きだが、そういった音だけの印象を残すというものが、昔からピアノを演奏している僕の琴線に触れた。  だから、母と一緒に渡米することを決断した。そっちの方が、より新鮮な音楽に触れることができるし、英語だって勉強したかったからだ。  それを伝えると、やっぱお前すごいよ、と兄は感嘆をもらした。 「ピアニストになりたいのかと勝手に思ってたんだけど、違うんだな」  正直それは分からない、と僕は答えて、そのまま続ける。 「どっちかと言うと、洋楽とか作ってみたいかも」  その言葉を聞いた兄は、洋楽か、とその部分を繰り返した。 「めちゃくちゃいいじゃん。ちゃんと夢持ってて安心したわ。お前、何考えてるか分かんないから」  そう話す兄の目の輝きは、感心なのか、それともただの花火の光の反射なのか分からない。ただ、ほぼほぼの可能性で前者だろうな、と僕は思った。
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