火花の散る向こうで

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 鈴虫の鳴き声だけが聞こえるなかで、お互いに最後の一本に火をつけた。  赤い光が先端に灯り、それが少しずつ火種のほうに身を滑らせていく。そして、やがて火花が散る。  僕たちは、この最後の線香花火をただじっと見つめていた。この花火に乗せた思い出やこれまでのことを思い返すように、静かに火花の行く末を見守っていた。  二つの花火はまだ消えない。今にも消えそうで、しかしそれでも消えない。この花火たちは粘り強い。まるで、この時間を少しでも長く続けさせようという、そんな意思さえ感じられた。  淡い風と鈴虫の鳴く声、そして線香花火の燃える音。ぼんやりとした閃光に照らされる暗がりのなかで、その空間に、なあ、と兄が声を乗せた。 「俺がプロボクサーになったらさ」  二つの火花はまだ消えない。 「お前が入場曲作ってくれよ」  僕は、思わず顔を上げた。  薄い赤の光に照らされた表情で、どうだ? と兄は言う。  昔から、まったく共通点のない兄弟だった。僕たちは、お互いがそれぞれの道を別々に進んでいって、そしてその道はどこも交わることはないのだろうと思っていた。だから、今回の離別でも、互いに別々の親を選んだ。やはり、僕と兄の道は交わることがないのだ、と確信して、僕は納得したと同時に少し残念にも思った。いくら兄弟でも、僕たちはやっぱり違う存在なのだ、と。  しかし、今の兄の言葉を聞いて、僕は気がついた。  確かに違う道を歩いていたのだとしても、それでも僕らは兄弟なんだ、と。  たとえそれぞれの道が別にあったとしても、その気になれば同じ方向に進むことだってできるのだ、ということを。
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