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火花の散る向こうで
小さな公園に吹くあたたかい風が、穏やかに鳴く鈴虫たちの声を乗せていた。
夜の暗がりが広がるなか、僕の手元に咲いた火花が、向かい合う二人の顔を赤く照らしだす。
「花火とか久しぶりだな」
手に持った自分の花火に火をつけながら、兄が嬉しそうに目を細めた。
「小学生のときなんか、毎年のようにやってたのにな」
兄の声は、花火の音に負けないようにするためか、それとも単純に気分が高揚しているのかは分からなかったが、普段よりも少し弾んで聞こえた。それでも昔はもっとはしゃいでいたのにな、とふと思う。僕は中学の真ん中に差しかかり、兄は高校生になった。
小学生の頃から、父の指導のもとで格闘技をしている兄は、厳しい鍛練をストイックに続けていて、高校生にしてはすでに精神的にもかなり自立している雰囲気があった。昔はしょっちゅう兄弟喧嘩もしていたのに、今では丸くなってすっかり優しい兄貴といった感じだった。
僕は、どうしてもこの兄には敵わない。
昔から、そう思っていた。
父が経営するボクシングジムで幼い頃から訓練している兄は、通っていた小学校でも少し名前の知られた存在だった。喧嘩をしても、まるで勝ったためしがない。いつも最後に僕が泣いていた。
まだ幼い頃に僕も兄と同じようにボクシングジムに連れていかれ、何度か兄の練習風景を見学に行ったけれど、当時の僕からすると――今もそうかもしれないが――その様子はあまりにも怖く、格闘技なんてできたものではなかった。
気が強い兄に対して僕は気弱だった。
僕と兄は、まるで正反対だった。
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