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兄弟愛
「また告白されてる……」
二階の図書室。窓際の席は、告白スポットがよく見える。
僕はそこで今月五人目の玉砕する女の子を眺めていた。いや、女の子ではなく、彼女たちを粉々に砕いてきた弟の茜(あかね)を眺めていた。
「同じ顔なのに、葵(あおい)くんは呼び出されないんだね」
後ろから同級生の岬健一(みさき・けんいち)が、覗きに来る。岬は僕ら兄弟とは違うクラスで、茜と面識はない。僕とは図書委員会で仲良くなった。低身長と幼げな顔立ちに似合わない本好きで、馬が合ったのだ。
「僕の性格より、茜の断り文句の方が問題だよ」
「“葵が大事だから誰かと付き合う暇はない”ってやつ? 有名人の有名な台詞だよね」
明朗快活で誰にでも優しい茜は、顔が東京ドーム三千個くらい広い。その上ルックスも良い。兄の僕が言うんだから間違いない。
しかし彼は頑なに恋人を作ろうとしなかった。僕と一緒にいるために。
いくら兄弟愛と言えど、度を超えてる。熱すぎる。
彼がそうなってしまった理由は、分かっていた。
――それでも。
「茜には、僕に縛られて欲しくないんだ」
「縛られてるのは茜くんじゃなくて、葵くんのように見えるけどね」
岬は微笑みを絶やさない。
「……どういう意味?」
「葵くんも実はモテるんだよって意味」
無言で岬を睨みつける。
僕の視線を受け止めた彼は、息を一つ吐くと、
「……まぁ、縛りたくないなら、ほどいてあげれば?」
肩をすくめる岬の提案を、僕は採用した。
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