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「…兄さん?」
這いずるように起き上がって、こわごわと呼びかける僕に、兄は腕を組んで口を尖らせた。
『なんだ、その顔は。さては、足があってガッカリしたな?』
「…いや…ちょっと、あの…足は…うん……」
言われてみれば足は両方生えているが、問題はそんなことなんかじゃない。
僕には確かに兄がいる。いや、〝いた〟という方が正しい。
5つ年上の兄は、僕が7歳の頃に亡くなった。
あの春の悪夢から、もう5年が経った。
魂が抜けたように口を開けたまま硬直する僕を、観察する素振りで眺めて、兄も口を開けた。
『…ああ、そっか。申し遅れたが、俺は幽霊だ。』
「……あ…うん。だよね…」
両手を広げて堂々と言い放たれた台詞に、僕は頷くことしかできなかった。
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