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「マレットって、一緒に確認した時入ってたよな。トライアングルのバチと一緒に」
マレットというのは木琴や鉄琴を叩くときに必要な、棒の先に毛糸が巻いてあるバチのことだ。それなら俺は見た。
『違うマレットなの。これじゃなくて、もうちょっと柔らかいやつ』
「いや、でも、もうしょうがないだろ。学校開いてないし、明日の集合場所は駅前だし」
明日は学校が廊下の工事をするので、1日開かないらしい。だから打楽器やチューバなどの大きな楽器は今日のうちにトラックへ搬入した。学校に入れないとあって顧問も忘れ物はないか、忘れ物したらタダじゃおかないぞと脅していた。
『そうなんだけど……』
「諦めろ。あるマレットで叩け」
俺は打楽器奏者じゃないから分からんが、正直どのマレットで叩いてもそんなに大差はない気がする。別に打楽器がメインの曲をやるわけでもないんだし。
明日早いんだから寝るぞ、と言って電話を終わらせようとしたら、美佳はボソッと呟いた。
『行くしかない』
「は? 行くってどこに」
『学校』
「だから、開いてないって……」
『竹波先生が言ってた。「もし忘れ物したら、夜中に学校に忍び込むしかない」って』
竹波先生というのは顧問の先生のことだ。確かに脅す目的でそう言ってたけど、実行に移す奴なんているわけがない。だって、夜の学校だぞ? 死んでも行きたくない!
「何言ってんだよ。寝言は寝て言え」
『寝言じゃない! 本気で言ってる。ねぇ、ついてきて』
「嫌だね。第一見つかったらどうすんだよ。大会自体出られなくなるかもしれねぇんだぞ」
『それは大丈夫。見回りは午前3時らしいから、それまでに入って出れば問題ない』
いや問題ありまくりだろ。やっぱアホだな。
俺はこれ見よがしにはぁ、と大きなため息を吐いた。
「あのな、美佳。明日は……」
『康則は全国行きたくないの?』
説得しようとしたら遮られた。俺は思わず「そりゃ行きたいよ。それ目指して今日まで頑張ってきたんだし」と答える。
『私も行きたい。1年の時はせっかく全国行けたのにレギュラー落ちして行けなかったのが悔しかった。去年は全国にすらいけなかった。最後の今年は、絶対に全国行きたい。それしか考えてこなかった』
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