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「さてここからどうしよう?」
美佳が閉まっている門を掴むが、開く様子は見られない。
高さは170センチの俺より10センチほど低い。登ってみるかと門の上部に手を掛けるが、腕に力は入らなかった。足掛けになるような段差も見当たらない。
「ねぇ。裏門なら入れそうじゃない?」
そう言われて裏門へ回った。確かに裏門は正門より高さが低く、よじ登れないことはない。さっそく手を掛けてみると、すんなり内側へ侵入することができた。それから美佳も門をよじ登り、不法侵入罪が成立した。
スマホの灯りを懐中電灯代わりにし、靴箱で靴を脱いで裸足のまま校内へ入る。サンダルは手に持って行くことにした。真っ暗で人気がない廊下をふたつの薄い光で照らし、歩くとふたつの足音が響く。ペタペタペタペタ。
「廊下、冷たくて気持ちいいね」
「ちょっと寒い気もするけど」
「康則、もしかして怖いの?」
「怖くないと言ったら嘘になる」
「えー。楽しいじゃん。おばけなんてなーいさ、おばけなんてうっそさ」
「やめろ。響いて怖い」
普段は人間がいるので音を吸収して声が響くなんてことはないが、吸収するものが何もない今の廊下は、歩く音さえも響いて聞こえる。響くので10人くらい連なって歩いているのではと勘違いしそうになるが、いるのは俺と隣を歩く幼馴染だけだった。
とっととマレットを回収してとっとと帰ろう。音楽室は4階の端っこにあるので割と遠い。
窓のない階段は廊下より暗く、足を踏み外しそうになる。後ろには誰もいないはずなのに、なんとなく背中がゾワゾワして気持ち悪い。振り返ったら負けだと思ったのでスマホの灯りを足元に照らし、それだけを見ながら上がっていった。
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