2.真夜中の442Hz

2/5
前へ
/10ページ
次へ
「さてここからどうしよう?」  美佳が閉まっている門を掴むが、開く様子は見られない。  高さは170センチの俺より10センチほど低い。登ってみるかと門の上部に手を掛けるが、腕に力は入らなかった。足掛けになるような段差も見当たらない。 「ねぇ。裏門なら入れそうじゃない?」  そう言われて裏門へ回った。確かに裏門は正門より高さが低く、よじ登れないことはない。さっそく手を掛けてみると、すんなり内側へ侵入することができた。それから美佳も門をよじ登り、不法侵入罪が成立した。  スマホの灯りを懐中電灯代わりにし、靴箱で靴を脱いで裸足のまま校内へ入る。サンダルは手に持って行くことにした。真っ暗で人気がない廊下をふたつの薄い光で照らし、歩くとふたつの足音が響く。ペタペタペタペタ。 「廊下、冷たくて気持ちいいね」 「ちょっと寒い気もするけど」 「康則、もしかして怖いの?」 「怖くないと言ったら嘘になる」 「えー。楽しいじゃん。おばけなんてなーいさ、おばけなんてうっそさ」 「やめろ。響いて怖い」  普段は人間がいるので音を吸収して声が響くなんてことはないが、吸収するものが何もない今の廊下は、歩く音さえも響いて聞こえる。響くので10人くらい連なって歩いているのではと勘違いしそうになるが、いるのは俺と隣を歩く幼馴染だけだった。  とっととマレットを回収してとっとと帰ろう。音楽室は4階の端っこにあるので割と遠い。  窓のない階段は廊下より暗く、足を踏み外しそうになる。後ろには誰もいないはずなのに、なんとなく背中がゾワゾワして気持ち悪い。振り返ったら負けだと思ったのでスマホの灯りを足元に照らし、それだけを見ながら上がっていった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加