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3.真夜中の口実
翌日。朝からうるさいくらい元気なセミの声を聞きながら、我が吹奏楽部の部員たちは音楽室に集まっていた。クーラーがついているとはいえ、人口密度が高いので部屋の温度は上昇するばかりだ。まぁ、理由はそれだけではないのだろうけれど。
「はい、皆さん。昨日は支部大会お疲れ様でした。皆さんの頑張りが全国大会出場という結果に出たと思います。本当におめでとう」
指揮台に立った竹波先生が、満面の笑みで俺たちを称賛してくれた。普段厳しい先生がこうして笑ってくれると、俺たちも心の底から笑顔になる。昨日結果発表で散々泣いたというのに、女子数名は再び泣き出した。うれし涙の泣き笑いである。
そう。俺たちは無事、10月に行われる全日本吹奏楽コンクールの全国大会出場への切符を手に入れたのだ。夜中に学校へ忍び込んでまでマレットを取りに行った甲斐があった。
チラ、と美佳を見るとそのマレットを嬉しそうに左右に揺らしていた。『このマレットのおかげです!』とでも言いたいのだろうか。
すると笑っていた先生が急に表情を硬くした。
「ところでひとつ、みんなに聞きたいことがあるんだが。昨日の夜に校舎に侵入した人がいるね?」
ドキッ。
170センチの俺は首をすくめて女子部員に紛れようと背を低くした。なんでバレたんだろう。美佳と目が合うと彼女は人差し指を自分の口元に持っていった。内密に、ということらしい。
「僕はわざとハーモニーディレクターを鳴らしてたんだけど。誰かが侵入すれば止めるだろうと思ったから。今日音楽室に行ってみると音が止められているどころか、丁寧にコンセントまで抜かれてた。誰かの仕業としか思えない。誰? 忘れ物をして本当に夜の学校に侵入した人は」
あの442Hzのシ♭の音は、罠だったというわけか。それにまんまと騙されたのか。さすが顧問。
「あの、竹波先生」
「はい、部長。なにかな」
「見回りの警備員さんの可能性はないでしょうか」
犯人の美佳は堂々と「疑われるなんて心外だ」と言わんばかりに可能性を指摘する。どうやら自首する気はないらしい。
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