恐い雨が降る

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 思い出したくない?  そんなことはない。だって今、こんなにもはっきりと思い出せるじゃないか。長い前髪から覗く大きな目。下の名前は、下の名前はなんだっけ?  ええと、順番に思い出そう。  あれは小学二年生の二学期の始めだった。  門から出る頃にはいつも一緒に帰る友達が風邪で休んでいたか、委員会があったのか、はっきり覚えてはいないが僕は一人だった。  少し前に海老原くんが歩いているのが見えた。  黒いランドセルひょろりと細い手足、だらだらとした歩き方、顔を見なくてもわかる。  でも、喋ったこともない海老原くんに話しかける勇気もなくて、少し離れて追いつかないようにのろのろ歩いた。    ぽつん。  青い空から冷たい雫が落ちて来たことに驚いて僕は変な声をあげた。 「ひえっ!」  明るい空から雨が降って来る。
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