恐い雨が降る

「お天気なのに雨が降るって変だね」
「天気雨。狐の嫁入りっていうんだって。おばあちゃんが言ってた」
「キツネなんかいないじゃないか」
　しゃがみこんだ海老原くんは「あそこに傘がある」と大きな声を出した。
「壊れてるよ」
　透明なビニールはべろりとはがれて骨も変な形に歪んでいる。
「使えるかもしれない」
　そう言いながら海老原くんは傘を引っ張った。
「そんなの、ゴミだよ」
　海老原くんは僕のいうことなんてまるで耳に入らないようだった。
　懸命に手を伸ばして傘を掴み、どろどろした水の中からなんとか引っこ抜こうと歯を食いしばり、足を踏ん張っていた。

「ねえ、手伝って」