悪夢と天国と。

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悪夢と天国と。

 真っ黒な闇がぽっかりと開いていた。  黒い黒い、漆黒の闇が。  それはこちらを見つめる大きな黒い瞳のようにも見え。  吸い込まれるようなそんな瞳の奥に、だんだんと落ちていく。  周囲が黒く漆黒に染まり、だんだんと自分もそう染まっていって。 (ああ。わたくしも漆黒になってしまうのか)  そんなふうに感じてしまう。  右手が闇になり、左手がそれに続く。  とっくに下半身が消えて見えなくなっていたことにようやく気づき。  恐怖が心の底から湧いてきた。  それまでは只々漆黒であると感じていただけ。  でも、急にそれが現実に見えてきて。  ああ、逃げなきゃ。  そう思った所で場面が変わった。  これは、夢?  夢の中でこれは夢だと感じるそんな不思議。  空がぐるんと回るような、そんな気分を味わったと思った所で。  シルフィーナはこのあいだの聖女宮に居た。  そう。自分がシルフィーナという名前だと言う事に、そこでやっと気がついて。  夢の中でこれが夢だと気づく。  夢の中で自分が自分であると、シルフィーナという名前であるとそう認識する。  そんな夢を見るのは初めてだ、と。  そう夢の中で思考する。  ああ。  こんな事を夢の中で考える事がはじめてなんだと、  そう思った所で目が覚めた。  ♢  はっと気がついて最初に見たのは見知らぬ天井。  豪奢なシャンデリアが見え、そしてふかふかのお布団につつまれているのがわかった。  ああ、そういえばここは……。  お酒を飲み過ぎたのか頭が痛い。  豪快な飲みっぷりのお義母様にお付き合いして慣れないお酒を飲んだからしょうがない、そう思って寝返りをうつ。 「大丈夫? うなされていたようだったけど」  と、そう優しく声をかけてくれた旦那様。  え? 旦那様!!? 「はう! 旦那様! どうして?」  シルフィーナの隣には、いつもの優しい笑みのサイラスがいた。  かなり大きなサイズのベッドだから、くっついているわけではなかったけれど。  シルフィーナの隣に、そっと寄り添うように横になっている彼。 「悪かったね。でもここにはベッドはこれしかないんだよ」  そうサラッという彼。 「流石に母の前で、別々の部屋を用意させるのは不自然だったからね。君にもちゃんと説明しようと思っていたんだけれど寝てしまったから。起きるまでこうして待っていたんだよ」  ああああああ。  嬉しい。  恥ずかしい。  でも、やっぱりちょっと嬉しくて。  ここはもしかして天国?  ううん、天国にいる夢を見ているのかしら?  と、そうパニックで頭の中がもうどうかなってしまいそうに、何も考えられなくなったシルフィーナ。  顔がどんどんと真っ赤になっていくのがわかる。  きゅう。  のぼせあがってそのまま気を失って。  最後に。 「大丈夫か!」  と、サイラス様が身体をゆすってくれたのがわかったところで意識が途絶えた。
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