1人が本棚に入れています
本棚に追加
あの頃。
大学を出て、新卒で入った会社で私は激しいパワハラにあっていた。
金融機関の事務員をしていて、直属の上司と、大ベテランのおばさんから日々いびられるのが日常になっていた。
仕事を覚えるのが他の同期の子達よりも遅く、おどおどしていた私は、おばさん達の格好のターゲットとなった。
「大学まで卒業したのに、何も出来ないダメなやつ」
おっかないおばさん達に萎縮してしまった私はミスを重ね続け、そんなレッテルを貼られてしまった。
そんな会社すぐに辞めたらよかったのに、私は2年以上も我慢してその会社に居続けた。
それでも、大学生時代から付き合っていた彼がいて、他県に転職が決まっていた彼について間も無く寿退社をすることになっていたので、あと数ヶ月何とか乗り切ろうとしていた。
だけど、職場でのやるせなさを彼にぶつけ続けていたら、婚約破棄をされてしまった。
当たり前だと思う。
大好きで優しい彼に甘えて、日々会社での愚痴ばかりになっていた。
せっかくのカフェもドライブデートも、彼にとっては苦痛になっていたと思う。
彼は、何度も私に退職を勧めてくれていた。
自業自得だ。
だけど、職場で虐められるがままになっている自分が、可哀想でならなかった。
大好きだった彼に振られ、会社を辞める理由もなくなり、何とか日々をやり過ごす日々を送っていた。
友人の式の後、約束通り話を聞いてくれた悠香が
「すぐに辞めなよ、そんな会社。逃げていい。琥珀、何のために働いてるの?そのおばさん達の、新人いびりの快楽のため?あんたまだ25歳だよ。そんな勿体無いことして。あんたSなの?」
私だってすぐに辞めたかった。だけど、少し毒親の気がある母のせいで辞めることを躊躇っていた。
彼女はきっと私を根性なしと言うだろう。
そのことも悠香に話すと
「あんたの生い立ちって。ねえ、私の友達がルームメイト探してるんだけど、そこに引っ越さない?いつまでも実家にいるからそうなるのよ。今から紹介してあげる。」
話は怖いくらいに早く進んだ。
結局私は次の日には退職代行を使って会社を辞め、1週間後にはジャスミンの部屋を格安で借りて、引っ越していた。
慎重派で臆病者の私にしては、随分思い切った決断だったと思う。
母親といえば、家を出て行く私の心を絶妙な言葉の矢で刺してきたけど、私の揺るがない様子を見て何も言わなくなった。
父親だけが、私の引っ越しを黙って手伝ってくれた。
最初のコメントを投稿しよう!