メゾン ド 琥珀

2/15
前へ
/15ページ
次へ
秋が始まりかけている日曜日の夕方、私は部屋で音楽をかけながら足のマッサージをしている。普段立ち仕事をしているので、脚がむくみやすい。だから、今日みたいな休みの日でも足を労ってマッサージをしている。 何もすることがないと、一時間近く経っていることもある。 マッサージは自己流だけど、長年やっていると、どうすれば心地良いかわかってくる。 短いノックの後、きいろが入って来る。 「やっぱり、やってると思った。」 長風呂をしていたきいろは、身体中から湯気を出しながら部屋に入ってくる。 「Tシャツぐらい着てから入って来なよ。別にいいけど。」 小さめの花柄のバスタオルを巻きつけて、髪から雫を垂らしながらきいろは私の目の前に立ち尽くしている。 「だって、お風呂上がりは暑いんだもん。」 「また廊下に雫垂らしながら来たんじゃない?ジャスミンに怒られるよ。」 私は歓迎の印に小さなクッションをきいろに差し出す。 「うん。ねぇ、そろそろ私にもそのマッサージやってよ。」 きいろは入浴剤の甘い匂いを漂わせながら、クッションを受け取って言う。 「だからさ、いつも言うけど、私のマッサージは自己流だからきいちゃんにやっても気持ち良くないと思うよ。リラックスしたいなら、プロにやってもらいな。」 「お金かかるじゃん。それに、お風呂上がりにやってほしいんだもん。」 私はきいろの話を無視して自分のマッサージを続ける。 きいろは我儘だ。だけど、私はきいろの我儘が嫌いじゃない。 むしろ、自由奔放で羨ましいと思う。 「ドライヤー貸して。」 諦めたらしいきいろは、私の安いドライヤーで髪を乾かし始める。 高機能で高級な、私じゃとても手が出ないようなドライヤーを自分で持っているのに。 「何これ、全然乾かない。」 そう呟くと、きいろは部屋を出ていった。 きいろは猫みたいだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加