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何でひより、という少女のおしゃべり相手が必要だったのか。外で自由に遊ばせるのを美津子さんが忌避したのか。その理由はわりとすぐ理解できた。彼女の話す内容は、非常に偏ったものだったからだ。それも、主に黒い方向に。
「地震が起きる本当の理由って知ってる?あれは、ただの天災じゃないのよ。神様が、そろそろ思いあがった人間に天罰を与えようと思ってやるの。でも、神様は結構うっかりやさんだから、津波とか火事とかの二次災害まで計算しきれてなくて、うっかり人間を殺し過ぎちゃうんだけどね」
「この世界で一番怖い生き物って、実は人間じゃないのよ。シロアリって知ってる?あれ、ただ木を食うだけの生き物じゃないの。本当は、人間だって食べることができるんだから。でも、今はそうしないの、神様に駄目って言われてるから。でも、気を付けないと……神様を怒らせちゃうと本当にまずいんだから。神様が“食べていいよ”といった時点で、人類は終わるのよ」
「人間は可哀想よね。人間同士で食べるのが一番栄養価が高いのに、いろいろと理由つけられてそれが駄目ってことになってるんだもん。人間同士で食べると恐ろしい病気になるって言われてるんでしょ?気の毒よねー」
「ちなみに生き物の内臓で一番美味しいところは、実は腸なの。できれば、殺さないで生きたまま引きずり出して食べる方が美味しいのよ。生きてるから蠕動運動していて、口の中でびくびくと踊り食いしてるみたいで最高に面白いし、中に未消化物や便が詰ってるからそれもスパイスが効いててなかなか美味しいんだから。柔らかい肉って、ちょっと苦味や刺激があった方が美味しく食べられるのよ?」
こんな具合に。
正直、一般的な感性の持ち主である俺からするとかなり気持ち悪い話題も多くて辟易したんだけど、俺はひきつり笑いを浮かべながらもただ相槌を返し続けたのだった。一体、どういう教育したらこんなサイコな発想の子供になるんだか。機嫌を損ねるな、と言われてなかったら大人として説教の一つでもしてしまっていたかもしれない。
何かがおかしいのでは、と気づいたきっかけは、ドアの隙間だった。さすがの俺も、五日目くらいにもなるとドアの向こうの存在が気になって来る。どんな顔をしているのか、くらい見ることはできないかと――ドアの下の隙間をこっそり覗いてみたりしたのだ。ドアを開けるなとは言われているが、隙間を覗くなとまでは言われていないのだから。
けれど結論を言えば、何も見えずに終わったわけで。
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