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ただ、不自然に真っ暗だったのが問題なのだ。隙間を覗いただけでも、部屋が明るいか暗いかくらいはわかる。それなのに、昼間にも関わらず部屋の中は真っ暗だった。電気もつけず、カーテンをしめきっているとしか思えないほど。
そんな真っ暗な部屋で、ずっとドアの前の俺と喋ってる女の子。さすがに、背筋が寒くなるのも当然だろう。
そして、アルバイトの最終日。
「ごめんなさい。今日だけは、夜遅くまでいてほしいの」
俺が出社するや否や、困ったような顔で美津子さんは言った。
「やっぱり、夜も淋しいって言われてしまって。だから、晩御飯はわたくしの方でお弁当を用意しますから、それでお願いします。深夜の十二時まで、あの子のお相手をしてくださらない?特別手当で、日給以外にさらに五万円つけますから」
「ご、五万円!?」
「はい。廊下の電気はつけていてくださっていいですし、エアコンもいつも通り付けたままにしておきます。下のフロアにはわたくしと従業員もおりますわ。十二時過ぎたら、あなたの家まで車でお送りしますから」
明らかに怪しいし、危険な臭いがする。しかし、特別手当五万円の魅力には勝てなかった。俺はちょっと怖いと思いつつも頷いてしまったのである。
夏の夜に、ドア越しに女の子と二人でお喋り。そう書くと、ちょっとした恋愛小説みたいだった。残念ながら相手は幼女(?)だし、そんなロマンチックな話などまったくしたこともないが。
――今日を乗り越えれば、七万円プラス五万円……!頑張るぞ……!
俺はいつも通り、彼女とのおしゃべりに興じた。殆ど彼女が一方的に喋っているだけではあったが。
そして、十一時を過ぎた頃。彼女が急に、妙なことを言いだしたのである。
「ねえ、あなたは何も知らないのよね?」
「え」
「知らないのよね?」
何の話だろう。俺は困惑した。よくわからないが“何の話ですか”と尋ねてみることにする。
するとドアの向こうで、彼女が機嫌良さそうに嗤い始めたのだった。
「いえ、いいわ。そんなことだろうと思ったから!……じゃあ今日は一番面白いお話をしてあげる。昔、この付近にあった小さな集落のこと。……この会社の前の道、ずーっとおじぞうさんが並んでいて変だなと思ったでしょう?あれはね、か弱い人間が拙い知識なりに試行錯誤した結果なの。……少しでも、相手の力を弱めるために」
力を弱める?俺がきょとんとしているのが空気でわかったのだろう。彼女は気にすることなく“実はね”と続ける。
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