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「あんた、兄貴じゃないだろ」
『何言ってんだよ、オレだよ。秀幸だよ』
そんなわけないんだよ。
だって兄貴は死んでるんだから。
今日は兄貴の四十九日の法要だったんだし。
「分かってんだよ。これってオレオレ詐欺だろ。切るぞ」
『あー、待て待て。お前、カズだろ?お前、覚えてるか?小学生の頃、隠れて父さんのタバコ吸った時の事』
覚えているよ。
あれは中学でヤンチャしてた兄貴に誘われて、大人の真似事をしてみようとタバコを吸ってみたんだった。
少女が鏡台の前で化粧をして楽しむのと同じ感覚なんだろうなと思うんだけど、違ってたらごめん。
生まれて初めてタバコを吸って、頭の中がグルグル回って気持ち悪くなった俺を、両親に気付かれないように兄貴が誤魔化してくれたのだが相当苦労したらしい。
警察官の父さんにバレてたら半殺しにあってたかもしれない。
その悪戯の事は、曲がったことが大嫌いな父さんが生きている間は絶対言わないと、俺と兄貴で約束した思い出だ。
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