2人が本棚に入れています
本棚に追加
洗い物が一段落した母さんが広間に顔を出す。
「秀幸は元気だったかい?」
「え、なんで?」
「今の電話、秀幸だったんだろ」
「そうだけど……。まあ、いつも通り元気だったかな」
死んでるのに元気っていうのも変だけど……。
「秀幸さ、和幸と話したいって言ってたんだよ。だから、四十九日の時に来るから話したら?って言っといたんだ」
「つーか、知ってたのかよ!オレオレ詐欺だと思った」
母さんは遠くを見つめながら、
「今までに何回かあったんだよ、秀幸からの電話。お父さんも話してるよ」
「そうなのかよ」
「最初はお父さんもオレオレ詐欺だと思ったみたいよ。元警察官の血が騒いだみたいで、親御さんに顔向けできるのか?って凄んでたけど秀幸本人だと気付いたら慌ててたけどね」
「ははっ、あの父さんが慌てたところ、見てみたかったな」
「ダメよ、お父さんにその話しちゃ。自分の息子のこと分からなかった、ってショック受けてたんだから」
「しょうがねえよ。まさか死んだ兄貴が電話してくるなんて思わねえだろ」
「今日で最後だって言ってたし、秀幸は最後に和幸と話せて良かったんじゃないの?」
「まあ、俺も話せて良かったなぁ」
それから何年も経った今でも、普段使わない黒電話は契約を継続され、広間の片隅にひっそりと置かれている。
いつかまた、金を要求しないオレオレ詐欺が掛かってきてもいいように。
了
最初のコメントを投稿しよう!